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9.17 トレンド判断

今まで、トレンドの転換点について解説してきました。本節以降では、トレンドのもつもう一つの要素、トレンド判断について解説していきます。

トレンドラインと移動平均線

トレンドの継続をいかに確認し捕捉していくか

デイトレードにおいては、トレンドはその転換点がどこかを軸に考えるべきことをこれまで述べてきました。ここからは、転換点で発生したトレンドが本当に正しいのか、また、次の転換点まで推移する様をどのように捕捉していくべきかを説明します。具体的には、トレンドライン移動平均線とを用います。

トレンドラインと移動平均線は事後的な性格があることに注意

トレンドラインと移動平均線は用い方に注意が必要です。これらの概念は後からチャートを分析する際やトレンドを追尾していく際には非常に有効ですが、デイトレードにおいてリアルタイムで進行するマーケットを捕捉するツールとしては、転換パターンと比較して判断が時間的に劣後しますし正確性も劣ります。どういうことか説明しましょう。

トレンドライン

トレンドラインを引くには、二点の上向きに連続する山もしくは下向きに連続する谷が必要ですが、これだけでは明確にトレンドが発生したとはいえません。そして、その二点の延長線上に三点目の山・谷が確認された後となっては、それなりの時間が経過しており、いつ次の転換が生じるか分からないため、そのトレンドラインを背にポジションを取るのはもはや危険な状況となっている場合があるということです。まして、四点以上の誰の目にも明らかとなったトレンドラインは、ブレイクの危険性を常に内包しているといえます。そもそも山や谷自体が、チャートが描画された後の形状の比喩であり、その形成過程においてそれが本当に山や谷となるのかという懐疑が付きまといます。

移動平均線

移動平均線においても同様の問題があります。たとえば、移動平均線を用いた代表的な売買サインとして、ゴールデンクロス・デッドクロスがあります。短期移動平均線と長期移動平均線との交錯をもって売買サインとするこの手法は、発生時において既に実際の価格の軌跡は明確なトレンドを十分に示した後であって、近い未来に転換の危険性を孕んでいる場合がしばしばあります。また、どの時間足をみるかによって異なるサインを示すことは珍しくありません。

「買うと下がる、売ると上がる」にならないために

「自分が買うと下がる、売ると上がる」と嘆く人は、5.3 サポート・レジスタンスと逆指値との関係で述べたような逆指値に対する理解が不足している方だけでなく、トレンドラインや移動平均線の用い方に問題があるケースもあります。つまり、超短期投資においても長期投資においても移動平均線やトレンドラインの有用性が均一と考えているのです。デイトレードにおける移動平均線やトレンドラインの有用性は、長期投資におけるそれに比較して低下します。

このように、リアルタイムにおけるエントリーや決済の根拠としては、転換パターンと比較して、トレンドラインや移動平均線の有用性は低い場合が多いことをまず述べておきます。これはもちろん、あらゆる場合において、エントリーや決済の根拠とならないと主張しているわけではありませんし、その有用性を否定するものでもありません。ただ、基本的には事後的な性格を帯びている可能性があることは常に意識しておく必要があります。

トレンドラインと移動平均線は転換点と比較してどのような立場にあるか

転換点を見抜く重要性

トレードにおいて最終的に最も大切なことは、どのような場面でどのような解釈をすることでエントリーの根拠をみつけるかです。その意味では、デイトレードでは転換パターンを軸として考え、トレンドラインや移動平均線を直接の根拠とする特定の戦術的場面を例外(参照:戦術論編-トライアングルからトレンド発生→最初の調整→最初の移動平均線への接触)とすれば、トレンドラインと移動平均線とは原則として補助的に用いるべきものです。

逆にいえば、長期投資であれば、トレンドラインや移動平均線の信頼性は高まります。より長い時間をかけて形成された月足レベルのトレンドラインや移動平均線は、その分だけ信頼性も高くなるからです。したがって、長期投資の場合は、ピンポイントに転換点を発見することよりも、既に発生したトレンドを後からでもいいので正確に見抜くことの方が重要です。長期投資の場合は、時間をかけて形成された分、トレンドラインや移動平均線の信頼性は高くなり、また、たとえトレンドが転換するにしても時間的余裕がありますから利益を上げることができます。むしろ「頭と尻尾はくれてやれ」の精神で、転換点を神経質に探すよりも、トレンドラインや移動平均線を用いて発生したトレンドを正確に発見する方が重要になります。

転換点を把握せずにポジションを持ち続けてはならない

ここは少し繊細な理解が要求されるところなので話を整理します。

デイトレードにおいて最も重要となる判断は、相場の転換点をいかにピンポイントで見抜くかです。

その際、トレンドラインや移動平均線がレジスタンスラインとして働くことはあります。レジスタンスは、トレンドを転換させる作用もありますから(参照:9.12 トレンド反転機会としてのレジスタンスライン)、その場合には一義的な根拠となることもあります。

しかし、一般にトレンドラインや移動平均線を最大の根拠としたポジションを持つことは危険がつきまといます。強力なトレンドラインの場合、一瞬だけしか価格がトレンドラインに接しずに反発することも多く、この場合は事前に指値を入れその後に転換サインを事後的に確認するという通常とは逆の流れにならざるを得ませんが、この場合でもポジションを持った後に転換点を確認できないければポジションを持ち続けてはなりません。トレンドの起点が説明できないにも関わらず、自分が描いたトレンドラインのサポート付近に来たから或いは移動平均線がゴールデンクロスしたからといった理由を直接の根拠としてポジションを漫然と持ち続けることは、デイトレードにおいてはご法度です。

デイトレードでは、あくまでも相場の転換点をピンポイントで見抜き、その見抜いた転換点の判断が本当に正しかったかどうか確認し捕捉していくためのツールとしてトレンドラインや移動平均線を用いることが王道です。直接的なエントリーの根拠としては転換点を起点に考え、トレンドラインや移動平均線はその見解の正当性を補強し、その継続性を把握するためのツールとして用いるべきが原則となります。

ゴールデンクロス・デッドクロスはそのままでは転換点として使えない

移動平均線について、ゴールデンクロス・デッドクロスは転換点ではないのか、と疑問を持つかもしれませんが、これを単純に転換点と認識することは危険です。先に述べたように、そもそも移動平均線自体が、事象の事後的な説明でしかないからです。移動平均線は既に発生したトレンドを事後的に確認するものであり、トレンドが誰の目にもわかる形で明確に確認されたときには、もうすでに別のトレンドが発生する可能性があります。転換を示すサインとしての性格は備えているものの、これを用いる場合には繊細な解釈が必要となります。

長期投資の場合、長期で形成された分だけデッドクロスされた意味が重くなり、別のトレンドが発生するにしてもタイムラグがデイトレードと比較して長大であり時間的余裕がありますが、デイトレードの時間軸で移動平均線のゴールデンクロス・デッドクロスを転換点として単純に考えていては、ともすれば「買ったら下がる、売ったら上がる」の状態に陥ってしまいます。今まで何度も述べてきましたが、月足は別格だということです。なぜなら一般的な時間足の最上位だからです。最上位ということは限界がないということです。天井知らずといってもいいでしょう。ゴールデンクロス・デッドクロスの月足レベルの考え方をデイトレードにおいてそのまま適用してはなりません。

逆張りのみを意味するものではない

転換点の把握が重要と説明すると、ではトレンドの転換点でのみ、すなわち逆張りでのみポジションをもつべきなのか、と勘違いしてはなりません。転換点を起点に判断することは必ずしも逆張りだけを意味するわけではありません。

転換点は当然に逆張りの好機ではありますが、この節で主張していることは、デイトレードではチャートのどこでトレンドの転換が生じているかをピンポイントで説明できない、すなわち現時点でのトレンドの起点が説明できない状態ではポジションをもってはならないということです。

トレンドの起点=転換点が把握できたなら、転換点では逆張りのポジションを取り、それ以後は、トレンドラインと移動平均線を用いてその理解が正しいかを確認しトレンドを追尾していき、トレンドラインと移動平均線をサポート・レジスタンスとみなしてポジションを順張りでとっていくことになります。

あるいは、転換点についての仮説が思いついたけれど今一つ自信がない場合は、転換点ではポジションを取るのを控え、以後のトレンドラインや移動平均線によってその仮説の正しさが補強された場合に順張りだけをすることになります。

結論

デイトレードにおいてポジションのエントリーの直接の根拠とすべきは、転換点を起点にした思考です。ただ、その思考の補助的なツールとして、またトレンドの継続性を捕捉していくためにトレンドラインや移動平均線は用いるべきだということです。

トレンドラインと移動平均性のデイトレードにおける用い方

では、具体的にはどのように用いるべきでしょうか。この点につき、トレンドラインは中・長期のトレンド判断、移動平均線はリアルタイムのトレンド判断の優先的な判断要素とします。

トレンドライン=中長期のトレンド判断

1分足や5分足のトレンドラインを細かく引いてみたところで、その信頼性はそれほど高いものではありません。これに対し、時間的洗練を経たトレンドラインはより確証の高いもととなります。そこで、トレンドラインは、中長期のトレンド判断において用います。デイトレードにおいても、より長期の足と一致した方向のポジションをもつ方が取引の優位性は高まります。ただ中長期といってもあくまでデイトレードレベルの時間軸ですからあまり悠長なものであってはなりません。かといって一定以上の信頼性を持てる長さは必要です。このバランスから日足・1時間足チャートに描きます。

移動平均線=リアルタイムのトレンド判断

移移動平均線はパラメーターに恣意性が入りやすい欠点がある分、マーケットの「感情」という定性的要素を定量的に測ることができる利点があります。感情は生ものですから、今ここに存在する感情こそが最大の価値があります。そこで、動平均線については平均取得価額を表すものと観念し、移動平均線と価格との関係・移動平均線間の関係・傾きから、相互に参照しつつ解釈を加えていくことで、リアルタイムのマーケットの感情を的確に素早く捉える手段として用います。

具体的にどのように用いるかについては次節以降にて順次説明します。

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