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3.2 利小損大の本質的意義

利小損大戦略の本質的意義

利小損大戦略とは、何を本質とするものか

「利小損大」を基本戦略として採用する以上、その意義を一歩踏み込んで解説したいと思います。簡潔な四つの漢字は直感的な理解を助けてはくれますが、これだけでは基本戦略と呼ぶには余りに心細く脆弱で、単なるイメージに留まります。いったい利小損大とは、何を中核とした戦略なのでしょうか。

利が小さく損が大きいことは、トレードの結果であってトレードスタイルそのものではない

まず注意すべきは、利小損大戦略とは、「含み益が発生した場合には小さくてもすぐに確定する一方で、含み損は大きくなるまで耐える」ことを前提として取引すること自体を目的とするわけではない点です。

はじめににおいて、また先にも2.3 主観を知に変換するにおいて述べたように、マーケットにおける思考は現実の直接的経験から知を創り出す帰納法であるべきです。従って、利小損大戦略の解釈においても、「利小損大」という公理を金科玉条として、現実の値動きがいかにあろうと利がでたらすぐに確定し損が出てもしばらくは耐えるという行動フォーマットを常に当てはめることを意味しません。その行動フォーマットはあくまでも利小損大戦略から演繹的に導かれる最も典型的な行動の一つであって、本質ではありません。状況によっては、ポジションを取った瞬間に違和感を感じすぐに少額で損切りをすることもあり得ますし、強烈なトレンドが明確に感じられるときは建値に逆指値を入れた上で大きな利益額の目標値に到達するまで放置することもあり得ます。

利小損大戦略の背景にある考え方

では、私のいう「利小損大」とは何を本質とするものでしょうか。これに答えるにはそもそもなぜ投資において損切りが重要か、それゆえに何をすべきか、どうしたらそれができるのか、を考える必要があります。

①価格は波動を描き、それゆえに揺り戻しが生じやすい事実を重視する

実際のところ、一度とった建値を二度とつけない事態はそう発生するものではありません。いわゆる天井掴み・底売りの場合であっても、二度とその値段をつけない事態はある種の歴史的出来事といえ、大体において値段が戻る場面は生じます。つまり含み損のポジションは現物取引であればかなり高い確率で助かります。

それでもなお損切りが必要なのは、価格が戻らない例外的場面では大部分の資金を一度で失う可能性があり、また時間的な効率性から損失を確定させて次のチャンスを伺う方が利益の期待可能性が高い場合があるからです。

しかし繰り返しますが、建値を二度とつけない可能性自体は非常に低いのです。とすれば、売買戦略においてもこの事実を前提として組み入れた方が、優位性が高まります。

②明確で具体的な基準は、例外である方が作りやすい

もちろん二度と建値をつけないといっても、「80年後に含み損が解消された」なんてことでは意味がありません。ここでいいたいのはそういうことではなく、重要なことは、価格は波動の性質があり、それゆえに常に揺らぎが存在し、たとえ短い時間軸の中でも直線的で一方的な動きを示すことはほとんどない事実です。デイトレードの中心となる一日から一週間の時間軸の中だけでも、本当にただの一度もその価格に戻らないことはあまりない、つまり大抵のポジションは助かる可能性の方が高い事実です。

にも関わらずなぜ損切りが必要かといえば、繰り返しになりますが、高いレバレッジや余裕資金でないが故に含み損に耐えられない局面にまで行きつき一回のロスカットで全ての原資までも失いマーケットから退場させられる可能性がある点、また場合によっては数十年単位の時間的間隔が生じることもあり得ることから、その期間を無為に過ごすよりは一旦損切り新たなポジションを構築する方が遥かに生産性が高い点に、損切が不可欠である根拠があります。それゆえに、損切りはすべきときに必ず実行しなければならず、そのためには明確で具体的な基準を持たなくてはなりません。

とすれば、これらのリスクをカバーする点に徹底的に向き合った明確で具体的な損切りラインを考えることは、むしろ損切りが例外的事態となる利小損大の方が作りやすいはずです。なぜなら、例外であるがゆえに際立った特徴を見出しやすく、また、原則から逆算して考えることができるからです。

利小損大戦略の本質とは何か

以上の点を踏まえて、利小損大戦略の中核とする点を述べると以下の二点になります。

①利益額よりも損失が発生しにくいことを重視するトレードスタイル

私が定義する「利小損大」は、判断が求められる局面において、大きな利益額を獲得できる期待可能性よりも損失を生じさせない期待可能性に価値の重きをおく戦略という意味です。この本質的価値観の具現化として、一定の含み益がでていれば保守的に利益確定する、一定の含み損が発生したらすぐに建値に指値を入れて同値撤退を狙う、もしくはエントリーを分割し平均取得単価を下げる余地を残すといった行動が導かれるのです。一つ一つの投資行動は、損失を生じさせない期待可能性が高いトレードをすべきという価値観の反映でしかなく、その行動の背景にある価値観こそが利小損大戦略の中核となるものです。

②必要性と許容性を満たす、明確で具体的な損切り基準をもつトレードスタイル

ただ、かように損切りの発生を極力忌避する売買行動をとっていても、大きな損切りを決断しなければならない場面は必ず訪れます。従って、どのような場合に損切を実行するかについては、チャートの動きの必要性の観点と損失の絶対的価額の許容性の観点から明確にルール化しておく必要があります。この際、利小損大戦略の下では、大きな損失を生むほどに価格に大きな動きであったがゆえに際立った共通する特徴を示しやすく、故に明確にルール化しやすいのです。利小損大では損切りが例外になり、例外であるからこそ明確で具体的にルール化できるのです。

4章 損切りでは、特にこの明確で具体的な損切り基準について、より深く考えていきたいと思います。ただ、具体的なルール化の前に、損切りといういわば本能に逆らう行動をとることができる心理状態を自身の心にセットしておかなければなりません。4.1 損切りに対する抜本的な意識改革をするではその点を導入として解説していきます。そして4章に進む前に、3.3 利小損大の戦略的優位において、改めてその戦略的内容と優位性について述べておきます。

▷次節:3.3 利小損大の戦略的優位性

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