日足と1時間足のトレンドに沿い、リアルタイムのトレンドにも沿い、典型モデルに基づき、許容損失価額から逆算した適正なポジションサイズで、救出可能性の高いと思われたエントリーを、認知バイアスが排除された状況で行ったとします。このように完全条件に基づきエントリーした場合でもなお、明白に失敗と言わざるを得ないポジションになるケースがあります。ゆえに、エントリー後には、救出可能性の観点から再度そのポジションが適性なものであるかを検証する必要があります。
結果として高値買い・底値売りになってしまったケース
不完全条件の売買として処理する方法
エントリー時は救出可能性が高いと考えたけれども、結果としてチャートの特異点とでも呼ぶべきポイントでポジションを持ってしまったケースです。チャートは慣習的な動きを繰り返す性質がありますが、時としてパターンから外れた変化をみせますから、いかに的確な判断をもってしても結果としてトレンドの山の頂点でロング或いは谷の底でショートする事態は残念ながら一定の割合で発生します。このような山の頂点・谷の底のポジションが救出されるためにはロングなら高値の更新・ショートなら安値の更新が必要となります。これはレンジや三角保ち合いによる価格の戻りでは含み損が解消されないことを意味します。それでも日足・1時間足レベルのトレンドに沿ったポジションであればなお救出可能性を期待できますが、たとえエントリー時においてはトレンドに従ったものであっても、途中で明白なトレンド転換が観察される場合は価格の揺り戻しによる同値撤退の可能性が著しく後退してしまいます。
このような場合は、たとえエントリー時においては救出可能性の観点を満たしたものであったとしても、事後的な視点からは救出可能性が欠けたポジションと評価すべきであり、不完全条件の売買に準ずるものとして取り扱うことを検討すべきです(参照:7章)。場合によってはロングなら直近安値・ショートなら直近高値を更新した時点でロスカットとすべきこととなります。
最短の典型モデルに移行させる方法
しかしその一方で、あまりに頻繁にこのような事後的操作をしてしまうと、利小損大の戦略構造に綻びが生じてしまいます。利小損大は、その発想の基本において、一度しかその価格を付けないことは稀である事実に立脚しており、多少の含み損は耐えるべきことを前提としています。まして正当な条件に則り、エントリー判断自体には目立った瑕疵がない場合は、ポジションをもったことによる心理的な動揺から多少神経質になってしまい、ちょっとした逆行を大げさにとらえてしまっている可能性もあります。
そこで折衷案として、長期モデルに基づいてエントリーしていた場合に、短期モデルへと圧縮させて処理する方法もあります。たとえば為替の場合なら、最短モデルの損切りの執行条件、すなわち当日の現時点までの最安値・最高値を15分足終値レベルで更新した場合(参照:4.6 損切りから逆算したトレードの典型モデル)に損切りを実行するわけです。個別の状況判断に依りますが、時間はかかっても建値まで戻る確率が一定程度見込めるならばこちらの方法をとることも検討すべきです。
ファンダメンタルに重大な転換が生じたケース
極めて重大なファンダメンタル転換が生じた場合
予想外の政策金利の変更や決算開示など、極めて重大なファンダメンタル的転換が生じた場合も、当然ながらエントリーした際の前提が崩壊したケースといえます。この場合は即座に損切りを検討すべきでしょう。
経済指標について
悩ましいのは、経済指標や要人発言による価格の変動が「ファンダメンタルに重大な転換が生じたケース」に該当するかです。特にポジションの想定するトレンドと逆方向に動き含み損となった場合に問題になります。
経済指標は景況の変化を示す証左となり得ますし、また、要人発言も政策的指針を推し量る資料となり得ます。その意味では、本来は精緻なファンダメンタル分析を行うための材料とすべきものです。しかし、デイトレードという短い時間軸の中では、経済指標・要人発言を直接的契機とする価格変動が生じたことにより、ポジションの救出可能性にどの程度影響を与えるかという観点から解釈されるべき問題となります。
まず指標については、指標によって生じた動きよりも、指標発表前のテクニカル分析やファンダメンタル分析を優先した判断を原則とすべきと考えます。以下、具体的に典型的なケースごとに場合分けして説明します。
市場の事前予測通りの場合
指標発表において最も基本的パターンは、当然といえば当然ですが、市場予想とそう大差のない数字が発表されるケースです。例えば、指標の発表前においては、市場予想に従ってショートが増えて価格が下がっていたとします。そして、指標発表時に実際に予想に近い結果が開示され、その直後には反射的な売りが入り更に価格が下がったとします。この場合、事前予測でも実際の発表でもショートが入り価格が下がったわけですから、この段階になるともはや誰も新規にショートしなくなってしまいます。まだポジションを持っていない人も、ここからショートしては底値売りの危険なポジションになるのではないかと警戒し、むしろ逆張りでロングした方が面白いのではないかと考える人が沢山でてきます。そういった買いが入れば、価格がこれ以上は下がらないと考えたショートポジションの人たちも利益確定の決済買いを入れていきます。結果として、短時間のうちに価格はもとあった水準へと戻っていきます。
デイトレードが想定する短い期間においては、一つ一つの経済指標の発表が相場全体の新たなトレンド作り出すことは基本としては少ないと思います。一定時間が経過すればまた元のより大きなトレンドに回帰することが多く、一時的な逆行に動揺して想定していたラインでない価格で損切りすると後悔するケースが体感的には多い印象があります。したがって「ファンダメンタルに重大な転換が生じたケース」には該当しないと考えますので、原則として即座の損切りは必要ないと思います。逆に含み益に関しては跳ね上がった時点で決済しておいた方がよいでしょう。
市場の事前予測とは異なる意外な結果が出た場合
もちろん、市場予想と異なった数字が発表されることもあります。その場合は、事前にショートポジションを持っていた人は予想外の数値に吃驚しますから決済の買戻しを入れてきます。また直後には条件反射でロングを入れる人もいます。従って価格が急激に上がります。急激に価格が上がれば、指標の発表に備えておかれていた多くの逆指値を巻き込みますから、さらに一段と急騰します。つまり、過剰に価格が高騰します。ポジションを持っていない人は、ここから買うことには警戒感がありますから様子を見ます。結果としてやや調整の売りが入り、例えばドル円なら、50銭~1円くらいの幅で水準が高くなり価格が落ち着きます。
ただこの場合でも、時間はかかるものの、それでも数日以内には元の水準に戻っていく現象が多く観察されます。このようなケースは、多くの場合、経済指標の変化そのものが重大に解釈された結果として価格が変動したというよりは、市場予測からすれば意外であったという感情的要因およびそれ以前の参加者のポジションがショートに偏っていたことからくる反動的な変動だからです。感情的原因による変動は時間が経てば平静を取り戻したマーケットによって押し戻されますし、参加者のポジションの偏りによる反動は時間が経てば従前のより大きなトレンドに収束されます。経済指標は長い時間軸で見た場合はより適切なファンダメンタル分析を行う助けとなりますが、デイトレードが想定する短い期間においては、一つの経済指標をもってして根本的なファンダメンタル条件に変化が生じたと判断するには材料が単発的であり根拠として弱いと考えます。従って、よほど意外性が高いものでなければ「ファンダメンタルに重大な転換が生じたケース」には該当しないと考えますので、原則として即座の損切りは必要ないと思います。逆に含み益に関しては価格が高値圏に落ち着いてる間に欲をださず確定させた方が良いでしょう。
従前のトレンドを追随する単なるきっかけに過ぎない場合
例えば、中長期的には政策金利を根拠として買いが進んでいる一方で、指標発表前に一時的な保ち合いが生じている状況の場合、指標を確認してから更に買いが進むといったケースがあります。これは、指標の内容云々で上がるというよりは、上げる契機として指標発表がマーケットにより選択されたと解釈すべきです。このような場合、いくらか予想外の悪い数値が出た場合でもそのまま上がるか若しくは一時的には下がるものの、より大きなファンダメンタル要因、この例でいえば政策金利に収束され、数日たてば従前どおりに買いが進んでいくことが多いと思います。
この場合、含み損を抱えていてはどんどん膨らんでいくだけですので「ファンダメンタルに重大な転換が生じたケース」に準じて損切りすべきです。厳密には指標発表によってファンダメンタルに変化が生じたわけではなく従前のトレンドが継続しているだけですが、大きなトレンドが確かに存在することの証左として指標が機能しているからです。本来ならば、そのような大きなトレンドに逆行したポジションを持っているなら指標発表の前に「ファンダメンタルに重大な転換が生じたケース」ないし不完全条件のポジションとして損切りしておくべきですが、こういったポジションを持っているケースは、指標発表により大きな価格の反転が起こり含み損が解消されるのではないかという期待を込めて持っているケースがほとんどだと思います。ポジションを持つ以上、いくらか認知の歪みが生じることはままありますのでそこまでは仕方ないにせよ、現実として価格が反転しなかった以上、もはや躊躇なく損切りを実行すべき時となります。逆に含み益の場合は、跳ねたところを保守的に利益確定することが正解なのはもちろん、従前のトレンドの勢いが確かめられより一層の伸びが期待できる場面すから、指標発表前の水準に逆指値を指して利益を伸ばすことを狙っても面白いと思います。
要人発言について
前後関係が明瞭な場合
ひと口に要人発言といっても、要人の程度と発言の中身と相場状況によりシチューエーションを異にするためモデル化が難しい問題ですが、それでも敢えてモデル化するとすれば、救出まで時間が増してしまうことはあるにしても根本的にトレンドを転換させることは少ないと思います。そもそも要人発言は、それのみで解釈してもあまり意味がありません。誰の発言を受けて何の出来事に対しての発言かを時系列にそって理解する必要があります。それに対し価格は、単発の内容を受けて過剰に反応することが多いため、少し時間がたち冷静に戻ったマーケットによって価格も戻されることが多く観察されます。また、わざわざマーケットに口先で介入してくるということは、逆にいえばその発言をしなければならないほど焦りがあることも多く、表面的な言葉の逆こそがマーケットの実体を表していることも多くあり、結果として±0になるイメージで価格は元の水準に戻る傾向があります。要人発言は、後からチャートの動きを説明する場合にはドラマティックな説明がしやすく便利な概念ですが、リアルタイムのトレードにおいて、既に持ったポジションの位置づけを変える要素としては根拠が薄いと考えます。実際のところ、後にならないと真意が分からないことも多いので、要人発言もまた原則としては「ファンダメンタルに重大な転換が生じたケース」には該当せず、これのみをもって不完全条件売買へと格落ちさせる必要もないと考えます。
突発的かつマーケットのトレンドに真っ向から反する発言の場合
ただ、発表時間が決められている経済指標と比較して、要人発言は突発的要素があります。もちろん「何時から会見」といった形で事前に公知されており、そこでなんらかの発言がなされる可能性があることを予想し事前に警戒できる場合もありますが、その場合でも一定の形式の中で限定的に情報が開示される指標発表とは異なり、発言の場合は言葉で自由にニュアンスを醸し出すことができますから、卒爾として思いもかけない発言が飛び出すことがあります。これが現在のマーケットの方向性に強く逆行するものであった場合、強烈な既存ポジションの決済が起こり、トレンド転換に準ずるほどの新たな潮流を生み出す場合があります。例えば、マーケットが上昇トレンドの真っただ中にあり多くのトレーダーがロングポジションを持っている状況の中、突如として利下げを暗示するような発言があった場合、驚いたロングポジションのトレーダーの多くは一斉に売り決済をします。予期していなかっただけに、逆指値を設定していなかったトレーダーも多くなりますから、逆指値が狩られることによる短い時間での極端な下降も起きないため却って反動としての戻りの上昇も大して起きることなく、一定のペースでしかし確実に下がっていきます。さらに突発的な発言であるために、発言を知ることが遅れてしまったロングポジションのトレーダーは後から更に売り決済してきますので価格はどんどん下がります。もちろん、突発的な発言をリアルタイムで知り反射的にショートを入れるトレーダーもいますし、下がっていく状況からみてトレンド判断により新規にショートしてくるトレーダーもいます。利下げの暗示という明確でイメージしやすい材料があるため、雰囲気でロングに逆張りするトレーダーもあまりいません。こうなってくると元の水準まで価格が戻ってくることは短い時間軸の中ではあまり期待できなくなってしまいます。この場合は、少なくとも典型モデルの完全条件とはいえず、不完全条件の売買として処理するかもしくはファンダメンタルの根本的変化に準ずるとして早期に損切りすべきでしょう。
例外は意識しておく
当たり前ですが、上記はあくまでも典型的ケースをモデル化したものであり、いついかなる時も該当するものではありません。硬直的に機械のごとくモデル通りに行動するのでは却って害があります。時間という存在がある以上、マーケットにおいて過去と全く同じ状況は一つとして存在し得ませんから、典型モデルと現状の相場環境との距離感を計測し、その時その時で最善の行動を選択していくことが大切です。