4.9 損切りから逆算したエントリーの最終基準

エントリーの前に決定しておくべき事柄

まず、前提として、前節 4.7 損失の許容絶対額において述べたように、エントリーの前には決定しておくべき事項があります。再掲しますと、

①最初にチャートの状態を読み取りトレンドの転換点を発見します②その後、そのトレンドにおける強固なサポートラインを探し、最も信頼性が高いと思われるところをテクニカル上の損切りラインに設定します③仮にポジションが逆行し、テクニカル上の損切りラインを割った場合の損失の価額を許容最大損失額の範囲内に収めるように逆算し、そのトレードにおける最大ポジションサイズを算出します④ただし、全ての取引において最大取引量でトレードするとリスクが大きくなりますから、そのトレンドの信頼性に応じて適宜サイズを調整します。

以上が、ポジションをとる前の段階において決定されるべき事項です。

これらの前提がある上で、最後の段階、すなわち実際にエントリーをすべきか、その最終的な関門になるポイントについて本稿は解説しています。

エントリーは、救出可能性が高いかを最終基準とする

エントリーも損切りから逆算して考える

繰り返し述べているように、利小損大は、損切りを基軸とする戦略です。損切りを中心に据えるということは、エントリーも損切りから逆算して検討することになります。実際のトレードの時間的経過は、先にエントリーがあり後に決済があるわけですが、思考の順番としては逆になります。

救出可能性が高ければ、利が小さくても積極的にエントリーする

利小損大の戦略を遂行する上で一番重要なのは、損切りの確率をできる限り小さくすることです。しかし同時に、どんなに低い確率に押さえ込んでも0%にすることは不可能である以上、損切りすべき時には確実に決済でき、損失額が原資金に対して致命傷とはならないことが必要です。このような観点から4章では、損切りの典型モデルを構築してきました。これを逆算して考えると、損切りの可能性が少なく、仮に逆行した場合でも損切りすべきポイントが明確である場合にポジションを建て、そのサイズは原資に対して致命的な価額とはならないものとする、という条件においてエントリーを検討することになります。

その際、どのくらいの利益額を目標値とするかは思考の中心要素とはなりません。最低限、同値で撤退できさえすれば、時間的損失以外のリスクはないわけです。従って、保守的な利益確定が中心となります。もちろん一定以上の含み益が出ている場合でも、状況次第では、さらに積極的に利益を伸ばすこと狙っていくケースもあり得ます。ただその場合でも、小さくとも利を確実にとり損が発生する機会をなるべく抑えるという利小損大の戦略的観点から、逆指値やトレーリングストップを積極的に細かく入れて、必ず一定の利益は残るようにすべきです。

以上の思考を判断基準の優先順位の観点からまとめると、そのポジションで大きな利幅を狙えるかよりも、逆行した場合でも戻りがあれば同値で撤退できるという救出可能性が高いかという点に、より大きな価値を認めるということです。これは一般にいうリスクリワード論とは解釈を異にすることに注意してください。

利小損大の戦略下におけるリスクリワード論

一般的なリスクリワード論は、あるポジションをとるかを決定する際、想定される損失(リスク)と期待できる利益(リワード)とを比較し、リスクよりもリワードが多い場合にのみポジションをとるべきとするものです。このリスクとリワードの比率は価額において検討されます。リスリワード論を価額において解釈する場合には、そのような大きな利幅がとれる機会がなければエントリーしてはならない、つまり消極的なエントリー戦略となります。これは利大損小から直接的に結びつくエントリーの考え方です。

これに対して、利小損大の戦略下におけるリスクリワード論は、利益の額は僅かであっても利益を取れる可能性が高く、また逆行した場合でも救出可能性が高く、救出されない場合でも損切り基準が明確であれば、原資に対してフェイタルなものとはならないポジションサイズにおいて、積極的なエントリーをしていき、早めに利益確定をすることになります。利益と損失との金額の比較ではく、利益をとれる可能性と損失を被る可能性との確率の比較になるということです。

利小損大の戦略のもとでは、額は小さくとも多くの回数の利益確定を目標としますから、積極的にエントリーしそれらを保守的に利益確定させます。一般にいうリスクリワード論に代表される慎重なエントリーとは解釈を異にすることで、戦略的統一性が保持されていることに注意してください。もちろん、大きな利幅が取れるにこしたことはありません。ただ、利益確定の効率性の問題は、利小損大戦略の下では一段格下の問題となります。

それでも待った方が良い場合もある

なお、6.2 待ちの重要性では、このような積極的なエントリー戦略下においてもなお休むべきとはどういう場合かについて考えています。いかなる時に行動すべきかということは、逆をいうと、いかなる時に行動すべきではないかという基準でもあります。したがって、この休むべきときを、「待機」として積極的に戦略的意義を見出し、解説しています。

利小損大の戦略下における損切りの意義のまとめ

4章では損切りについて解説してきました。利小損大の戦略下では、損切りを中心として考えることができるかが成否の分かれ目になります。損切りは、血の流れる行為です。いわば自分で自分の手足を切り落とすようなものであり、人間の本能・自然に逆らうものです。とすれば、損切りを行う機会を極力まで減少させ、その代わりにどこでどのように損切りすべきかを徹底的にモデル化させる、これがORTHRUS STRATEGYで提唱する利小損大戦略です。

損切りラインが明確な場合にエントリーを検討し、損切りラインから逆算してポジション量を算出し、なるべく損切りしなくて済むよう救出可能性が高いポイントでエントリーを実行し、ポジションを持ってからは損切りしなくて済むよう救出可能性を高める努力をし、利益がでたら損切りしなくてよかったと素早く確定をしていく。全ては損切りをいかに的確に確実に実行できるかです。

救出可能性を高めるとは、具体的には、逆行した場合はすぐに同値撤退の指値を入れることを意味します。特に為替においては、5pipsも逆行したら一先ず同値撤退の指値を入れるに十分だと判断します。保守的な利益確定とは、エントリーの根拠となった時間足、つまりトレンドを確認し損切りラインとなるサポートラインを見出した時間足よりも小さい足のレジスタンスラインに価格が到着したら、特に根拠がなければすぐに利益確定をすることを意味します。

これらが実行できれば、通説の利大損小でなくとも、そして心理的にはより安定した状態で、資産は増やしていけます。

▷次節:9.8 典型モデルを構築する意義

-4 損切り