4.2 損切りの基準は明確で具体的でなければならない

明確で具体的な基準が必要

損切りの実行を決意するためには、明確で具体的な基準が必須です。

トレンドサインは必ず相互に矛盾を示す

例として、あるポジションを取ったがチャートが逆行してしまった場合を考えてみましょう。自分の玉がロングであるのに対し、現在の価格は建値を下回っていたとします。仮にトレンドに逆らっているすれば、救出の可能性はより小さくなってしまいますから、的確なトレンド判断が問題となります。

しかし、それぞれの時間足チャートやインジケーターは、異なるトレンドサインを示すのが通常です。全ての時間足とインジケーターとで同一のトレンドを示すことは極めて稀です。前節の繰り返しとなりますが、このような場合に損切りに際して明確な基準を持っていなければ、自分がみたいと思っている情報を無意識に取捨選択してしまう確証バイアスに簡単に陥ります。確証バイアスは無意識に陥るものですから、その概念を知悉しているからといって避けられるものではありません。

ポジションをとる前に、具体的かつ明確な損切りの基準を決めておく

それゆえに、すなわちポジションを取る前に決済するルールを決めておく必要があります。ここは極めて重要な点です。知識として確証バイアスや保有効果といった行動経済学の概念を知っているからといって、これを避けることはできないということです。それゆえに、ポジションをとる前の段階で、具体的かつ明確な基準を定めておかなくてはなりません

明確で具体的な基準とはどういうことか

画一的な基準だけでは足りない

では、基準を定めるとはどういうことでしょうか。通常の利大損小の戦略をとる場合には、たとえば原資本のうち-3%になった場合に損切りするといった極めて単純化されたルールの下で機械的にそれを実行していくという形でも最低限のリスクヘッジは機能します。

合理的な損失でなければ、いずれルールを破るようになる

しかしながら、小さい利益を確実に積み重ねていく「利小損大」でこのような単純なルールでは足りません。利小損大の戦略をとる場合、大部分のトレードでその利は小さくとも勝たなくてはなりません。また、相場の環境により、数%の損失に該当する変動が生じる可能性は当然に異なります。一定以上のボラティリティがある相場環境のもとでは、数パーセントの含み損が一夜明けてみると含み益に転じているケースは珍しいものではありません。このような事態が繰り返し起きると、やがてルール自体に対する疑心が生じます。疑心は認知を歪ませ、そう遠くないうちに、ルールを守ること自体なくなるか、もしくは損切りとして設定したラインにまで値が近づいてきたとき簡単にルールを破ってしまうようになるでしょう。

個別のトレードに応じた基準を作り出す

それゆえに、損切りの基準は、現実の値動きを注意深く観察し、その時々に応じた個別的な合理的基準を帰納法的にその都度見つける必要があるのです。マーケットにおいて有効に機能するのは演繹的思考ではありません。帰納的思考でその場に応じた知を作り出す作業が不可欠です。

判断材料の優先順位を把握しておくことがポイント

では、どのようにその基準を作り出すのか。そのために何より重要なことは、判断材料に優先順位をつけることです。そして判断は、優先順位が一番高いものから取り組んでいきます。なぜ決断ができないのか。それは判断の基準となる要素をいくら多く理解していても、それらの相互の関係性、すなわち優先順位が明確化されていないからです。一つ一つの論点に深い理解があっても、それら判断材料の相関性と軽重とを理解しておかなければなりません。逆にいうと、これができれば、もはや致命的に損切りが遅れるということはなくなるでしょう。

次稿では、具体的に損切りの基準を作り出す一例を詳説します。

▷次節:4.3 各時間足への意味付け

-4 損切り