7 不完全条件下での執行

7.1 不完全条件の売買にどう対処するか

ここまで、いわば戦略の「計画」について考えてきました。これを「実行」に移す際、齟齬が生じる場合があります。これは単純に不注意のみに起因するものではありません。利小損大の戦略スキームは、損切りを中心に考えます。つまり、損切りを適切で合理的な発生確率と被害額とに押さえ込む一方、大多数の取引では同値撤退か小さくとも確実な利益確定を繰り返し、収支を正とするものです。この戦略においては、リスクリワード論は確率において解釈されますから、非常に多くの取引機会が巡ってきます。その中には、損切りの極限モデルの条件に必ずしも完全には適合しない場面でもエントリーすることが有り得ます。ここはトレーダー各人の個性・才能という係数がかかる部分ではありますが、積極的に小利の積み重ねを狙う局面においては、完全に条件に合わずとも判断でエントリーすることは実際よくあります。とすれば、極限モデルだけでなく、そういった条件が不完全な取引をもモデル化しておくことが利小損大の戦略の最適化を図る上で必要となります。7章ではこの不完全条件のもとにおける売買戦略を詳述します。これもまた利小損大の戦略下における問題である以上、如何に合理的な損切りができるかという観点が中心となります。

ではまず、不完全条件のもとでの取引とはどのようなものであるか、6章までの売買スキームを復習しながら、その対比において記述していきたいと思います。

4章において、損切りの極限モデルを構築しました。この極限モデルは、必要性と許容性の観点からのものです。

必要性とは、損切りする必要性が極限まで高まった状態、つまり自己のポジションとは逆のトレンドが形勢された可能性が高い状況です。これを本稿では、前日までの3日足で陰線が形成され、当日にその安値を1時間足で更新した場合(自己のポジションがロングの場合)としました。

許容性とは、保持することが許容できないほどに含み損の価額が高額になってしまった状態、つまり自己の原資に対する危機的状況です。これを本稿では、資産の-15%としました。

両者を比較した場合、必要性は客観的な相場の状況であるのに対し、許容性はトレーダーの個人的な事情です。継続的に再現性をもってマーケットから利益を獲得しようとする場合に、個人的な事情が媒介することは当然マイナスに作用します。チャートはまだ救出可能性があるのに、自分のポジション管理の甘さのためにロスカットせざるを得ないとすれば、精緻にチャート分析を行った意味が希釈されてしまうからです。従って、必要性の極限モデルが最重要となります。

ここで悩ましいのは、損切りした時点が大底になってしまう可能性です。許容性極限モデルの場合は先に述べたとおり個人の事情でありチャートとは全く無関係ですが、必要性極限モデルの場合で考えると、3日足の安値を一瞬だけ割って大きく反転する可能性、すなわち典型的にはダブルボトム、もしくはその派生的な形としてのトリプルボトムや逆ヘッドアンドショルダーが形成される可能性があります。典型モデルでは、これを避けるために1時間足という猶予を設けて、また決断と実行とのタイミングにラグを設けるわけです。とはいえど、売った地点が大底になる可能性を完全に抑えることは当然できません。悔しい思いをすることもあるでしょう。

利小損大の戦略的観点からは、極力損切を避けるべき要請があります。しかし、損切りを全くしないトレードはいずれ破綻します。この大底のリスクはどうしようもありません。トレード自体に内在する危険性であり、これ以上の要素に分解することができないものです。ですから、極限状態になれば、損切りは必ず決意・執行しなければなりません。いわば最悪の状況での防衛ライン、これ以上は耐えてはならないという最終防衛ラインです。そして、チャートが下落していればしているほど、もうそろそろ反転するのではないかという期待も比例して強くなりますから損切りを実行する心理的抵抗値は高くなります。そのため、執行の条件を明確かつ具体的なものとする必要が絶対にあります。

しかし一旦ポジションを建てたなら常にこの極限値まで耐えるのかというと、それはそれで不都合があります。極限モデルはいわば合理的な損切りといえる最低限のラインです。現実の相場の動きからこれを時々の状況に応じて、より早い段階で決済することは当然に起こります。

ところが、ここで問題が生じます。利小損大の戦略下では含み損においては最大限のリスクを取るかわりに、その発生可能性を最小限に抑えることで成り立ちます。にも関わらず、極限モデル以外の損切りの用い方や執行の条件付けを誤ってしまうと、小さな損失が積み重なることによって損小損大という最悪の結果を生み出してしまいます。

「損失の発生可能性を最小限にするために一定程度の時間的ロスを許容し含み損が同値で撤退できるまでに回復を待つ。そのために、逆行した場合でも救出可能性が高いエントリーを行う。このため大部分のポジションは小さいながらも利がでるか同値で撤退でき、稀に生じる損失も一定程度に抑えることができる。」、これが理想です。しかし、現実には、ポジションを建てて初めて分かる感覚というものもあります。いざ持ってみたら非常に不安を感じた、失敗だったと思ったことは誰しもあるでしょう。そのような場合に適切に対処するための戦略が必要です。

損切りの極限モデル自体は理論的に構築できたとしても、運用するのは実際の人間です。人間である以上調子の良し悪しがあります。その悪い場合、ある種のヒューマンエラーが生じた場合における対処法までもモデル化しておくということです。明らかに失敗のポジションケースを極限まで耐えることは無策としか評価できません。

その際、利小損大の戦略と全体的な統合性を失ってはなりません。大なる利を目指すものではなく、損失発生の回避可能性を上げることを意識してモデルを構築します。次章では、その具体的手段について述べたいと思います。

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