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7 不完全条件下での執行

7.2 二つの対応策

エントリーの条件は、極限モデルから逆算的に導き出されます。その条件を完全には充たしていないポジションは、不完全であるがゆえに、完全性を前提とした極限モデルよりも早い段階で損切りをすることになります。

しかし、「不完全条件の場合には早めに損切りをする」といった単純で漠然とした意識では継続的実行可能性がまずもってありません。

そもそも、より厳しい損切りモデルをもう一つ用意するだけでは、利大損小の戦略と利小損大の戦略とが混在する結果となってしまい、損小損大に陥る可能性があります。従って、利小損大の戦略性優位性を毀損せずに不完全性に対応する必要があります。また、「早めに」の具体的内容が個々の状況に応じて異なる以上、一般原理として公理化することが極めて難しい点にも問題があります。公理化できないならば、「早めに」損切りした結果、その後さらに逆行すれば損切りしてよかった、反発すれば切らなければよかった、そうなるだけです。推測の可能性を上げる努力は必要ですが、それは戦術レベルの話であり収益の効率性の問題です。戦略とは、最終的な収支を+にする全体的なスキームですから、予測の当たり外れによって年間収支が+になったり-になったりと、結果が左右されるものであってはなりません。

では、不完全な売買に対し具体的にどのように対処するか。この点については、よく知られている二つの売買手法を用います。一つは途転売買、もう一つは部分決済からの難平です。極限モデル以外での損切りは、原則として損切り単体ではなく、この二つの何れかを用います。この際、利小損大の戦略的優位性を毀損しない観点から両者の意義を解釈する必要があります。

まず、ドテン売買の意義について考えます。上昇トレンドと判断しロングを持ったが、極限モデルを待たずに損切りするケースを例にとります。この場合、トレーダーには、次のエントリーは損切りしたポジションより優位な価格で建てたいという心理が生じます。すなわち、より低い価格で再度ロングで入りたいバイアスが生じます。これは損切りを実行したものの、損失回避性の心理的残滓がまだ処理できていないことを意味しています。また、もともと上昇トレンドと判断していたわけですから、思考自体が上昇トレンドへのバイアスがかかっています。この状態から、下降トレンドだと判断しショートに転じるには、心理的抵抗を乗り越えなくてはなりません。つまり、ドテン売買を義務付けることは、直前の損切りしたポジションのバイアスを払拭する効果があります。また、一旦ポジションを持った場合に生じる、保有効果の影響を受けたポジションへの無意味な執着心を減少させる効能もあります。この2つの利点を上手く引き出せるように執行条件を形成します。

次に、部分決済の意義について考察します。含み損の状態は苦しいものです。損切りしなければ含み損が更に大きくなるかもしれない恐怖を感じる一方、損切りをするとそこが天井・大底になる恐怖も同時に感じます。この両方の恐怖からくる怯えが認知の歪みへと変化し、合理的判断を難しいものにします。そこで、例えば50%のポジションを部分決済します。すると、逆行が続いた場合でも損失額は50%に減り、反転した場合でも含み損は50%は減ります。いずれの恐怖も半分減らすことができるのです。ここで、いやいや反転した場合の回復率も半分に減ってしまうわけだから同じじゃないか、と当然思われるでしょう。しかし、それは単純に数学的に考えた場合です。反転した場合でも同値撤退できるまでは、この上昇は僅かな慰めにしかなりませんが、それに対しそのまま逆行し含み損が膨らんできた場合の恐怖心は指数関数的に大きくなるからです。これは数学的な期待値は同じでも、受け取る人間の心理に大きな差が生じる例の一つです。利大損小か利小損大かの選択の際の発想と同じです。その後に部分決済した分を、難平として使用します。こうすることで救出可能性を高めると共に、恐怖心に影響を受けた認知の歪みを減少させることができます。この2つの利点がうまく作用するように条件付けします。

利小損大の戦略的優位性は、正確な認知のもとで合理的に損切りをコントロールできる点にあります。それゆえ、早い損切りであっても、それが認知の歪みを解消させる作用をもつ場合は、損切りの合理性にその根拠をもつ利小損大の戦略的優位性を棄損しないのです。

利小損大とは損切りの合理性を機軸とする戦略です。損切りの合理性とは三つの側面があります。一つ目は、損切り自体が滅多に起こらないようにすること、二つ目は、損失額が巨額になりすぎないこと、三つ目は、含み損から決済までの時間がかかり過ぎないことです。この三要素を充たすことが必要となります。この両者を上手く使えるようになれば、損切りの実行機会は大幅に減りますし、額を抑えることができ、時間的な損失も生じなくなります。次節以下では、両者の具体的な執行条件を考えてみたいと思います。

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