転換点とトレンド判断の具体的な考察に入る前に、トレンドの原則的な性質論を確認しておきたいと思います。これらは転換点とトレンド判断を考える上で、共通の土台となるものです。
一度発生したトレンドは、原則として継続する
トレンドは原則として継続する
5.1 基本的認識にて「レジスタンスとサポートは原則として機能する」という前提で思考した方がよいことを述べました。不完全情報の場であるが故に不確実性の高いマーケットにおいて仮説を生み出すためには、何らかの仮定が必要となります。その際たるものとして、レジスタンスとサポートの機能期待性を仮定し、思考の骨組みとするわけです。
この思考様式に従えば、トレンド判断についても同じ結論が導かれます。すなわち、「一度発生したトレンドは原則として継続する」というテーゼです。
たとえば、1時間足チャートにて、上昇トレンドラインを引くことができる二点の谷が形成されたとします。その時トレーダーは、その谷の二点を通る直線を引きサポートラインとし、さらに並行チャネルも描いて上値のレジスタンスラインも可視化します。その後の価格は、そのチャネルの範囲内で推移すると仮定して考えるべきこととなります。これが「レジスタンスとサポートは原則として機能する」がゆえに「トレンドは原則として継続する」ということです。
トレンドの発生は例外的事態である
しかし、その上昇トレンドも、たとえば週足レベルの最高値や日足の下降トレンド並行チャネルの上限など、より重い判断基準をおくべきレジスタンスにいずれ衝突するでしょう。その時、そのより重い判断基準を置くレジスタンスが機能する可能性が高いと考えれば、ブレイクは発生しない可能性が高いことになります。ここから「トレンドが発生するのは例外的事態である」というテーゼも導かれます。
トレンドレスの状態が基本である
「トレンドの発生は例外的事態である」ということは、チャートの大きな割合を占めるのは、実はトレンドレスの状態であることを示しています。つまり、上昇トレンドでもなく下降トレンドでもなく、トライアングルに代表されるコンティニュエーション・パターンの方が原則的な形態ということです。短い時間足ではトレンドの発生は比較的多く観測されますが、これに振り回されないことが大切となります。
ブレイクはそれ以前のトレンドと同方向性の可能性が高い
そして「トレンドは原則として継続する」以上、「コンティニュエーション・パターンの最終的なブレイクの方向はそれ以前のトレンドと同方向の可能性が高い」であろうことも導けます。つまり、保ち合いに移行した場合でも、その保ち合いの間に、すなわちマーケットの参加者の間で心理的な迷いが生じている間に、特にファンダメンタルに影響を与えるような新たな出来事が生じなければ、やはり元のトレンドで大丈夫だとの確信を参加者に与え、以前のトレンドが復活するということです。
シンプルに考える
結論として、「レジスタンスとサポートが原則とて機能する」とシンプルに考えれば「トレンドは原則として継続する」「トレンドが発生するのは例外的事態である」「最終的なブレイクは以前のトレンドと同方向性である可能性が高い」という主題が自ずと導かれ、多くの思考的果実を収穫できます。テクニカル分析においては、様々なコンティニュエーション・パターンが存在します。同じトライアングルでも、シンメトリカルなのかアセンディングなのかディセンディングなのか、レクタングル、ウェッジ、フラッグ、ペナント・・・と色々ありますが、一言で「レジスタンスとサポートが原則として機能する」がゆえに形成されるパターンだと纏めることができます。各々の参加者の心理的背景の違いを根拠として様々な変形をみせるにすぎません。
この機能期待性は、5.2 心理的背景で述べたように、そう考える人が多ければ多いほど有効に働きますから、出来高との関係が重要になります。いずれのチャートパターンにせよ、基本的には終わりに近づけば近づくほど出来高は減少していきます。換言すると、サポートとレジスタンスがブレイクされる直前には、出来高が乏しくなっていく傾向が観察されます。抵抗線と支持線の生命的なエネルギーが出来高に表れているイメージです。
一つ一つの論点をただ点として覚えるだけでなく、全体を通じる理論的背景を考察すれば、お互いの点が線で結ばれ本質的な理解に到達します。本質的な理解は思考経済に優れるが故、デイトレードにおいて必要な考察時間の短縮をもたらし直観の正確性につながります。またシンプルであるが故に正確でもあります。複雑なものが常に優れているとは限りません。
▷次節:9.3 転換パターンを押さえる