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6 認知バイアスの排除

6.2 待ちの重要性

人間である以上、認知の偏りから逃れることはできません。トレーダーがとりうる現実的な対処法としては、認知の偏りが生じないようにすることではありません。認知バイアスが生じることを受け入れたうえで、そのような偏りが生じている可能性がある場合に如何に対処するかが問題となります。この点についての回答は、単純にして明快なものです。何もしないこと、すなわち待機です。

休むも相場 ~待機の重要性

本章では、トレードにおいて最も長い時間を占める行為について詳述します。すなわち、待機、ポジションを取らずに機を伺う時間です。今までは謂わばトレードの動的部分について検討してきましたが、本章では静的部分にあたる待機について考えてみたいと思います。

「休むも相場」という格言はよく知られており、トレードにおける待ちの重要性は人口に膾炙しています。しかし、その不作為性ゆえ、実際のトレードの行動指針として取り入れることが最もイメージしにくい要素の一つです。

たとえば、買おうか迷ったが何となくこの格言を思い出し見送ったところ、その後急激な価格変動が起きたケースを考えてみます。下落した場合は、やはり買いを待ってよかったこととなりますし、上昇した場合には単に利益獲得の機会を逃しただけとなります。これでは、謂わば賽の目を振った結果が奇数だったか偶数だったかかという結果論を導くものでしかなく、売買の基準となるモデルとしては全く機能していません。

或いは、ショートを考えていたところ、トレードとは無関係のなんらかの事情により取引画面から離れざるを得ない事態が発生したとします。時間をおいて久々にチャートを開いみると、急激で極端な上昇をみせており、さすがにこれ以上は難しい様相だと判断できたのでショートで入ったところ無事に値が落ち大きな利益を獲得できた場合などです。これは文字通り何もしなかったケースで、結果として「休むも相場」が機能したにすぎません。

つまり、「休むも相場」が単に結果論でしかない状況に対する尤もらしい後付けの理由としてしか機能しないとすれば意味がありません。デイトレードで継続的に収益を上げるための行動指針として機能させるためには、明確に具現化した価値判断基準としておく必要があるのです。しかし、上に記したように、待機はその不作為性に特徴があり、この作業は簡単にはいきません。そこで、一旦、改めて戦略モデルを構築する意味について確認し、その足がかりとします。

今までトレードにおける戦略モデルを構築してきましたが、不完全情報のマーケットのもとでは、モデルが完全に当てはまる場面は観念し得ませんし、そもそも当てはまっているかを完全に確認する術もありません。最初に述べたように、戦略モデルは帰納法的思考により導き出されるべきものであり、現実の値動きとの関係性の中で、その瞬間における最上の判断知を創造するための道具として用いるものです。

注意してほしいのは、これは現実のマーケットの動きにモデルが当てはまる可能性が高いと思われる局面を機械的に抽出することを意味していません。仮に典型モデルが完全無欠のものでありマーケットが完全情報の場であればそのような作業は意味を持ちますが、現実には、典型モデルは誰が作ったものであれ誤りを含みますし、マーケットもまた時として不合理な動きをします。

したがって、典型モデルを足がかりとして現実の値動きと向き合い、その値動きが何を意味するのかという解釈は、その都度ごとに現場で創造していく必要があります。そしてその中で普遍的に当てはまる知が発見されれば、それを戦略モデルにフィードバックさせ、更新させていくこととなります。いわば動的なプロセスを言語化・定量化していく作業です。このようにしてできる典型モデルはいわば集合知であり、その構成要素の一つ一つが全体との統合性を有している必要があります。

ORTHRUS STRATEGYの戦略モデルは、その出発点として「利小損大」を礎としています。これは通説である「利大損小」とは逆となりますが、その根拠は先にも挙げたように、私のトレードスタイルや個性・才能の元では、「利小損大」の方が認知の歪みがはるかに生じにくいという点に最大の根拠があります。

とすれば、待機の戦略を典型モデルに組み入れるに際しても、この全体的構造と関係性を持たなくてはなりません。つまり、認知の歪みが生じている可能性が高い場合にそれを避けるという目的に従って、トレードを休み一旦相場から離れた方が良好な結果が得られるケースを類型化するのです。

先に損切りの章にて「ポジションを持つと人間は馬鹿になる」と述べましたが、本章では「そもそも馬鹿がポジションを持つ」状態に陥ることを避けるための戦略的意義を持つこととなります。損切りは負け戦の処理の問題ですが、待機は負ける可能性のある戦を避けるための問題です。

次節以降では、ポジションを持とうとするトレーダーに認知の歪みが生じている可能性が高いが故に時間的間隔をあけた方がよい場面を類型化していくと共に、その際の心理的処理について具体的に考えてみたいと思います。

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