特定セクターへの資金の流入が観測される局面での戦術

株式においては、資金移動を観察することが重要です。全体の地合いを計る目的としてだけでなく、具体的なトレード手法として昇華させることも可能です。

資金の循環性

マーケット間の循環性

一言で「株式市場が上昇トレンドにある」といっても、日経平均・トピックス・東証二部・ジャスダック・マザーズの全ての指数が均一の強さを示すことは稀です。一般的には、日経平均の主要銘柄の上昇が最初に観察され、次に東証一部全体に広がっていき、そのあとに新興市場、といった風に大きなマーケットから小さなマーケットへと資金がトリクルダウンしていきます。

セクター間の循環性

このような流れは、一つのマーケットの内部でも観察されます。たとえば、新興市場への資金の流入が観察される場合において、ある特定のセクターの買いが観察され、そのセクター全体の買いが一服すると今度は別のセクターが上昇を始めるといったように、資金が循環的に流れていきます。

時価総額に従った流れ

更に細かく観察すると、同一のセクター内でも、時価総額の高い銘柄から低い銘柄へと資金が入っていく流れが見て取れます。

このような流れを予測し、特定のセクターに多くの資金が入っていく流れを確認できた段階で、先んじてそのセクター内の時価総額の低い銘柄に注目し、数日から数ヶ月単位でホールドすれば、時として非常に高い収益を上げることができます。

銘柄を選別する方法

とはいえ、時価総額の低い銘柄の全てが上昇するわけでは当然ありません。では、どのような点に着目して銘柄を選別すればよいかが問題となります。

財務に注目する

この点、特に注目すべきは、財務の良好な会社です。そもそもある特定のセクターに資金が集まっている場合、その導火線となる切っ掛けがあるのが通常です。典型的には、そのセクター内の会社の一つに強力なファンダメンタルの改善に結びつくIRが出たような場合です。導火線となるべき銘柄の株価が急激に上昇し一旦の落ち着きをみせた後に、投資家の余った資金の矛先が同一セクターの別の会社に向かうわけですが、同一のセクターといっても他の会社は特に材料が出ているわけではありません。そうすると、とりあえず時価総額が大きく経営基盤が安定している会社、といった点くらいしか判断材料がありません。都合よく同一セクター他社にもファンダメンタルを裏付ける強力なIRが続けて出ることは想定しがたいですから、判断基準としては、積極的要素ではなく消極的な要素が少ない会社ということになります。

したがって、相対的に財務の健全な会社、すなわち、経常黒字であり、有利子負債が少なく、現金を多くもっており、キャッシュフローの健全な会社の株式を保有しておけば、近い将来において大きなリターンが期待できます。この戦術は、十分な時間的余裕を持って判断できるにも関わらず、比較的短期に高い収益を期待できる点に妙味があります。リスクも低く高い収益性を期待できるので、機会を逃さないようツールをカスタマイズする手間をかける価値があります。私は、株式では楽天証券にてマーケットスピードを使用していますが、ページごとに特定セクターをまとめて登録し、この動きを逃さないようにしています。

デイトレーダーであっても財務を研究する価値はある

少しの努力の上積みで大きなチャンスが生まれる

マーケット間あるいはセクター間の資金の流れを観察することは地合いを測るために重要ですが、本来デイトレーダーにとって個別の会社毎の損益計算書や賃借対照表の詳しい内容は、資料的価値の優先度としてそれほど高くはありません。

しかし、だぶついた資金が流れる先として、短期的な上げであっても、他に判断材料がない場合は財務が良好な会社が選ばれる傾向があります。この戦術は、日計り取引ではなく、早くて数日、遅ければ数か月単位の時間がかかりますから、その間の資金拘束が痛い部分はあります。ただ、リスクが低く、その割に時として大きな利益を生みます。

株式は全体の地合いをまず考え、地合いとの関係でセクター、個別の銘柄へとトップダウン型・パラシュート型の思考が大切ですから、どのみちファンダメンタル分析は必要になります。その際に、一歩進んで、個別の時価総額と財務の良好性を調べておけば、少しの上積みの努力で大きなリターンが取れる可能性が生まれます。

中長期投資とは全く異なるものである点に注意

なお、この戦術は中長期投資とは全く異なる点に注意してください。その会社の成長性に本気で期待しているわけではありません。あくまで、短期的な資金の流れの中でも財務が良好な会社が神輿として祭り上げられやすいという話です。セクターに資金が流れてきて財務良好な会社が祭り上げられた場合、その価格の急騰は短期的・一時的な現象に留まり、セクターから資金が抜けると同時に急激に株価は元の水準に戻っていくことが通常です。

短期トレーダーとして注意しておかなければならない点は、手間をかけて調べ且つ実際に保有すると銘柄に対する愛着が生まれやすいという人間の性質です。それ以前はあんまりパッとしない会社だなあくらいにしか思わなかったのに、いざ調べあげた上でポジションを持つと、未来のGoogleやMicrosoftに見えてきてしまう心理が人間にはあります。比較的大きな値幅が狙える戦術ですが、こうした心理的誤謬に陥らないよう強く自覚し、銘柄に惚れず冷静に利益確定しましょう。

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