FX戦士くるみちゃんの感想

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FX戦士くるみちゃんについて

『FX戦士くるみちゃん』という可愛らしいタイトルとは裏腹に、淡々と乾いた筆致で描かれる、FX為替トレードの漫画です。界隈では非常に話題になったので、御存知の方も多いでしょう。

私も今でこそSNSで他のトレーダーと多少の交流がありますが、伝統的、本質的にトレーダーは孤独の性質を纏います。故に、共感に飢えています。そういった場合、通常は物語を通じその慰みとすることができるのですが、こと投資においては個人トレーダーを取り上げた作品は少なく、あったとしても物語性よりもある種の啓蒙性に重きを置いた教養書としての性格が強いものでした。この作品は、トレーダーの共感への渇望を充足してくれる、私が知る限り初めての作品です。ここに表現されていることは、全てのトレーダーが一度は経験したことではないでしょうか。

投資経験の無い知り合いにも、面白い作品だからと薦めてみたことがあります。意外というべきか、やはりというべきか、残念ながら反応は余り良くないものでした。トレードの経験がないと、この心臓の裏側まで舐め尽すような心理描写の妙味は伝わらないものかもしれません。逆にいえば、トレーダーにとっては、この上なく生命感を感じる人物像を創り上げています。特に、各キャラクターの表情が、その時々の相場に向き合うトレーダーとしての微妙な感情的ニュアンスを記号的表現に頼らず繊細に描画しており、原画を破れば赤い血が滴るのではないかと思わせるような凄みを感じます。またそれゆえに、ラフな画風でありながら、各キャラクターに肉感的な色気が漂っています。

とりわけ主人公のくるみちゃんは、キャラクター創作における漫画的発見だと思います。彼女は、明晰な知的資質のもとに地道な努力ができ、性質も柔和かつ剛健です。優秀で目立った闕如が一見無いようにみえる一人の女の子が持つ巨大な負の異常性と狂気とを、薄紙に滲ますかのように微かに、しかしはっきりと描く様は圧巻です。

作品自体の面白さに加え、もう一つ、この作品を読む個人的意義があります。かつて私は、就寝前の床の中でふと、なぜトレーダーになったのかを自問自答することが有りました。しかし、トレーダーとして長い時間を経るうちに、なぜ以前はトレーダーでないものを目指していたのだろうと思う方がしっくりくるようになりました。これが良いことか悪いことか分かりませんが、何らかの変容が無意識下に生じたことは確かでしょう。自分の中の一般的社会性を保持するために、このような物語を通して自己を客観視する必要があると思っています。

残念ながら一時休載となっていますが、再開していないか定期的にチェックしてしまいます。秀逸な作品なので、未読の方は是非ご覧になることを御勧めします。

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