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1 序論

1.3 「戦略」の意義

「戦略」とは、マーケットから継続的に富を獲得していくための必要条件であると前節で述べました。しかしこれは機能面での説明にとどまり、これだけでは全体像の具体的なイメージが掴みにくいと思います。イメージが有るか無いかでは、理解の速度と深度とに大きな差が生じます。それゆえ、ここで1節を割き、戦略の意義をもう少し敷衍してみたいと思います。

ある概念を理解するための有効な手段として、その概念の対義語を理解する方法があります。この場合の「戦略」の対義となる概念は「運」だと考えます。戦略という概念を人類史上最初に理論的に体系化したのは、孫武もしくは孫臏といわれます。春秋時代以前、特に西周以前の殷の時代においては、戦争に限らず政治は天意によるべきものとされ、卜占により重大な決定が行われていました。もちろん大量の戦車を用いた用兵など、戦略・戦術とは呼べないまでも、その素朴な思考的断片は存在しました。しかし、宗教的権威が実際に兵を動かし政を行う上で重大な影響力を持ったのは、司馬遷の史記の記述や考古学的出土物から明らかです。亀の甲羅や獣の肩甲骨にできたひび割れと現実世界の神羅万象との間に因果律を見出し意思決定の重大な要素とすることは、現代の我々からみると運任せのような印象を受けます。

それに対し孫子は、戦争においては人為の意思決定の理論的体系の理解と実践こそが勝敗を分ける要としました。甲羅のひび割れでもなく、祈祷を天に捧げるでもなく、清廉な行いを天に誓うのでもなく、知識を構築し対象を観察し合理的な行動をとることこそが勝利への最も重大な因果であることを記しました。ここに戦略の概念が誕生したのです。

トレードにおいてチャートが自分の望まぬ軌跡を描いたとき、どうかこのポジションを助けてくれと神に祈ったことは誰しも一度はあると思います。実際助かることもあるでしょう。しかし、幸運の女神が自分だけを注意深く避けているかのごとく、不運な結果に終わることもまた多くあります。戦略とは人為です。戦略を重視するとは、知性に基づき人間が合理的・体系的な意思決定を行うことが最善の結果をもたらすという信念を持つことです。

我が国にも「神仏を尊び、神仏を頼まず」という宮本武蔵の箴言があります。これをトレードに当てはめてみると、時に不合理な動きをみせるマーケットを恨まずに受け入れ尊重した上で現実的な対応を考えなければならない、そして時に不合理であっても合理性への追求をあきらめてしまいポジションの行く末を運に任せるようなことはあってはならない、という趣旨に解釈できると思います。

本当のところをいえば、マーケットのシステムは不公平・不平等を内在しています。しかしそれでも、それこそ無理やりに思い込んででも、自分の判断とトレードの結果との間には極めて強固な因果関係があるという大前提を崩してはなりません。運に頼まず己を頼み、戦略を築きあげ生き残りましょう。

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