1.2 戦略は、テクニカル分析・ファンダメンタル分析より重要である

テクニカル分析・ファンダメンタル分析

前節のような質問をされた方が実際にトレードをはじめると、更に踏み込んだ質問をしてきます。曰く「ボリンジャーバンドを使っているのですが、問題ないですか」「良さそうな銘柄を教えてください」。こういった質問をされる方は、テクニカル分析やファンダメンタル分析を通じた未来予想を聞きたいのだと思います。さらに言えば、具体的で簡潔で分かりやすい見通しや売買手法を知りたいのでしょう。テクニカル・ファンダメンタルと値動きとの間に、直接的な因果関係とまではいわずとも何らかの相関関係が存在し、その関係性を発見することがトレードに勝つための必要充分条件だとする考えです。

こういった方々は、必ずしも楽をしようという人ばかりではありません。様々なテクニカル指数に対する深い高等数学の理解がある方もいましたし、また、驚くほどの熱意をもって貸借対照表や損益計算書を分析していた方もいました。しかし、そういった方々の生涯収支がマイナスであることは珍しくありません。

ここで私はある主張をします。テクニカル分析やファンダメンタル分析は、確かに有用ではあります。しかし、これらはマーケットから利益を上げる効率性を高めはしますが、トレードの最終的な収支が正で終わるか負で終わるかには、殆ど関係がないと考えています。

「いや、そんなことはない。現に高名な投資家もテクニカルやファンダメンタルで売買しているじゃないか」と具体例を挙げて反駁することは容易です。バフェットはファンダメンタル分析に基づく長期投資で莫大な財を築きましたし、ジム・ロジャーズも罫線屋に金持ちはいないと喝破します。その一方、個人投資家で大成功を収めた方々は、B.N.F.氏を初めテクニカル分析を基軸におく方が多く見られます。そして、彼らのマーケットに対する予測は、時にニュースとして大きく取り上げられ、相場に影響を与えることすらあります。とすれば、やはり投資とはテクニカル分析かファンダメンタル分析か、若しくはその両者の折衷的分析により、未来を予測することではないかと思われるかもしれません。

しかし、それでもなお、テクニカル分析とファンダメンタル分析は収益の効率性に影響を与えるにすぎず、利益を継続的に獲得していくための大前提となるものが別に存在すると考えます。ではなぜこのことを大きく取り上げた教書があまり世の中に見当たらないのかというと、以下の理由によると思います。

まず、類稀なる投資の才を備えた方にとっては当たり前のことで意識的に思考したことすらないケースがあると思います。あるいは多くのトレードを通じて感覚的に自然と身に着けたのかもしれません。何より、この大前提となる存在は、当人の持つ才能や個性により中身が大きく異なりうるために一般化・普遍化しづらい性質があると考えます。それゆえに、一般のトレーディング教書で、このことに深く言及しているものは少ないのだと思います。

戦略と戦術

この利益獲得の大前提となる存在、換言すると、マーケットから継続的に富を獲得していくための必要条件、それをここでは「戦略」と定義します。そして、必要条件を充たした上でより効率的に収益を上げるための思考を「戦術」と定義します。

戦略的思考が鍵

ORTHRUS STRATEGYでは、この「戦略」を中心に論じます。繰り返しとなりますが、この戦略の中身は、原資の程度、目標とする収益の率と価額、それを実現するための期間によって、それぞれ異なってくると思います。当人の才能や個性といった属人的要因に強く影響を受けるからです。それでもなお一般化を試みるならば、認知の歪みを排除した上で行う統一的な思考、という言葉に集約できると思います。常に冷静で合理的な精神を保った上で統一的な価値基準によりマーケットを解釈し一貫性のあるトレードを行うということです。

これは一見当たり前のように感じられ、拍子抜けするかもしれません。しかし、極一部の例外的人物を除き、ただ「冷静で合理的な判断をしよう」「統一的判断をしよう」と思うだけでは、冷静で合理的な統一性をもつ判断を下す人間にはなれません。思うだけでは「そうなったらいいなあ」という願望を述べているだけに過ぎず、何ら解決の手段を提供してはいないからです。

テクニカル分析・ファンダメンタル分析は戦略的思考のための素材

解決のためには、合理性な判断を常に下せる典型モデルを構築する必要があります。そして、この典型モデルを構築していくに際する素材としてテクニカル分析・ファンダメンタル分析は非常に有用です。換言すれば、認知の歪みを排除し統一的な思考方法のもとで、テクニカル分析やファンダメンタル分析は解釈されなければならないということです。ただ断片的にテクニカル分析やファンダメンタル分析を知っていても、相互に矛盾した方向を示すことが少なくないこれらの指標を認知の歪みの無いフラットな視点で統一的に解釈できなければ、利益を上げることはできません。

このような戦略的思考が無い場合、自分にとって都合の良い未来展開を無意識に期待し、その期待に沿ったテクニカル分析やファンダメンタル分析をこれまた無意識に取捨選択するようになってしまいます。いわば、自分の願望が先に結論としてあり、それに沿ったテクニカル分析やファンダメンタル分析だけをみるようになってしまいます。こうなるとむしろ知らない方が良いくらいかもしれません。

実際、戦略的思考、すなわち認知の歪みを排除し統一的な思考方法であれば、仮にテクニカル分析・ファンダメンタル分析をさして知らずとも、マーケットから利益を上げることは可能だと思います。現に、板の歩値やチャートのパターンを独自に分析して利益を上げているトレーダーも存在します。ただ、一から自分で作り上げるより、既に存在している先人たちの知の結晶を利用しない手はありません。単純に、その方がより効率的だからです。

2章以下では、戦略的思考のための典型モデル構築の具体的手順について詳述していきますが、その前に次節にて、この戦略の概念の重要性についてもう少しだけ念を押しておきます。

▷次節:1.3 戦略の意義

-1 戦略の重要性