途転売買と部分決済との具体的手順
損失の許容絶対額からの割合で使い分ける
不完全条件下でのトレードの場合、どこに不完全性があるかは個々のトレードによって異なりますが、必要性からの損切りラインのモデルを完全には満たしていないから不完全条件でのトレードとなるわけです。よって、不完全条件でのトレードモデルは、必然的に許容性からの損切りラインを基準に考えることになります。
前提として、許容性からの損切りライン(参照:4.7 損失の許容絶対額)を確認しておきます。すなわち、原資に対して-15%にまで含み損が膨張した場合は、確定的に損切りを実行するというものです。途転・部分決済ともに、それよりは含み損の割合が少ない段階での戦略となります。
では、その具体的内容を詳述します。
途転売買
途転はポジション初期の段階、原資に対する損失額の割合が1%~3%の範囲に留まっている時点でとりうる戦略です。つまり、かなり早い段階、典型的にはポジションをとった直後から想定外の逆行が起きたようなケースで主に用います。損失額が大きくなってからのドテンは、往復で殴打される可能性が高まりますので、これは当然のこととなります。そして決済も極めて早い段階で行うべきです。途転は大なる利益獲得を目的とするものではありません。利小損大の戦略下において用いる以上、損失と同値の含み益がでた段階で即座に利益確定をします。それが難しければ、ドテン後のポジションで多少でも益がでれば合計して微損のままでも決済することもあります。きちんと指値をおくことが原則です。できればIF-DONEで注文し、損失分と利益で同額になる時点にも決済の指値をおいておくことです。
部分決済
一方、部分決済は、ポジション中期以降の段階、原始に対する損失額の割合が3%~10%超にまで侵食している時点でとりうる戦略です。部分決済した分は、後の難平で取得価額を下げるために用いることがあります。難平をする場合は、必ず部分決済をした価格よりも優位な価格、たとえばロングポジションであればより低い価格で難平します。そして、場合よっては、難平部分のポジションが、購入価額を上回ればすぐに決済することも考え、逆に下回れば難平で購入した分は同値での撤退を狙うべくすぐに逆指値を入れることも選択肢として考えます。この作業を細かく繰り返していき、最初のポジションの含み損と獲得利益とが均衡しプラスマイナスゼロになった時点で全て決済します。
このような機動的戦略を考える上で一つヒントになる事例を紹介します。東証1部にワッツ(証券コード2735)という100円ショップの「meets.」を中心に事業を展開している会社があります。2019年9月時点で時価総額100億円に満たない小さな会社ですが、この会社の経営戦略はなかなか面白いものがあります。100円ショップといえばダイソーが有名です。今更いうまでもないですが、ダイソーは品揃えが豊富ですし面白いアイデア商品もあります。こういった商売では、スケールメリットが大きくものをいいます。生産・仕入・輸送・販売のいずれの点でも、コストの低減に優位に働きます。このような業種の特色を考えれば、小さな後発企業が利益を上げていくことは難しいように思います。しかし、その後発企業であるワッツは、独特の出店戦略によって年々規模を拡大してきました。その戦略的中核がローコスト出退店です。簡単に説明すれば、ダイソーがいない地域を狙って出店し、その際にいずれダイソーが進出してくることを予め想定しておきいざ実際に出店してきた場合に即時に撤退ができるようあらかじめ店舗の賃貸借契約に特約をうっておくというものです。企業は永続的な発展を志向するところ、会社の発展と店舗の存続とを切り離し、戦略的撤退を繰り返すことでワッツは発展を遂げてきました。このローコスト出退店の戦略と途転売買・部分決済の戦略とは、イメージ上共通するものがあります。攻守の素早い切り替え、含み損という大きな脅威が出現した場合には即時に撤退しまた条件の整ったところで難平をいれていきその難平もまた利益確定と撤退を繰り返していく、これはいわば資金規模が小さいが故に可能な戦略です。数十万から一千万円の間は、板の厚さを考える必要が無いゆえに機動力を働かせることができる大きなメリットがあります。一億円を十数倍にするのは大変ですが、数十万円から一千万円の間は、多種多様で機動力の高い戦略が豊富に使えるが故に再現性が高いのです。
▷次節:8.1 アノマリーをどう考えるか