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10 為替のトレンド発生要因

10.4 中央銀行の伝統的金融政策

為替のファンダメンタルはほとんど無限に及びますが、中核となるものを一つあげるとしたら、中央銀行による金融政策だと思います。ここでは、伝統的金融政策の沿革と、中銀と政府との関係についての視点的枠組みについて、最低限知っておくべき知識を著述しています。

中央銀行は、物価の安定を通じて経済の発展に資することを目的とした組織です。経済活動を行う際に最も影響を与えるのは物価です。物価が不安定だと合理的な消費や投資を行うことができなくなるので資源の効率的な分配が困難となり、経済の健全な発展が阻害されます。この目的達成のために行う政策が金融政策です。

中央銀行の最も伝統的な金融政策は、金利の調整です。中央銀行は、金利を調整することで、一国の経済に強烈な影響を与えることができます。金利の調整は、主に公開市場操作を通じてなされます。公開市場操作とは買いオペ・売りオペのことです。買いオペレーションとは、低金利に誘導することを目的に、中央銀行が一般銀行の持つ国債や手形を買取ることです。国債等を売った銀行は、代わりにお金を手に入れます。そのお金をただ眠らせているだけではもったいないので、銀行は法人や個人に低い金利でお金を貸すようになります。手元にお金が沢山あるので、利子は安くてもいいからどんどん借りてくれというわけです。金融機関による融資が活発化した結果、法人・個人は経済活動を積極的に行うようになります。法人は設備投資を行い利益を拡大し従業員への給料もよくなりますし、個人もローンがしやすくなり大きな買い物を積極的にするようになります。さらに通貨安を導き、輸出産業が刺激されます。賃金が増え総需要も増加しますから、物価は上がっていきます。一方、売りオペレーションとは、高金利に誘導することを目的に、中央銀行が一般銀行に国債や手形を買い取らせることです。国債等を買い取った銀行は、代わりにお金を失っています。そうすると、残りの貴重な手元のお金を法人・個人に融資する際は高い金利を要求するようになります。手元にお金があまりないから、高い利子を返してもらわないと貸さないよ、ということです。結果として、金融機関による融資が停滞し、法人・個人は経済活動を消極化させます。法人は利益をだせなくなり従業員の給料も減りますし、個人も大きな額の買い物はしなくなります。賃金が少なくなり総需要も低下しますから、物価は下がっていきます。

改めて述べますと、金利の調整ができることは強力な権限です。この特徴は、判断だけで実行できることです。たとえば、景気対策として法人税を引き下げて企業活動を活発にするにしても、法律の制定には極めて時間がかかります。公共事業を行うにしても、どの分野にどのくらいのお金を投資すべきなのか財政とのバランスが要求されます。それに対し、金利の調整をはじめとした中央銀行が行う金融政策は、判断ひとつで実行可能です。これは逆にいえば、中央銀行の金融政策次第で、一国の経済事情が大きく傾く可能性があるということでもあります。景気が悪いのが問題なのは当然として、景気がよい=法人個人の経済活動が活発=市場に沢山のお金が出回っている、ということですから、必然的にインフレの危険性が高まります。あらゆる商品は無限には存在しません。特に存在が限定的な土地などは天文学的に価格が上昇していく危険性があります。景気のサイクルは熱すぎず冷えすぎず、適度なサイクルで回転させなければいけません。このような繊細な舵取りが要求される経済が一機関の判断に大きく影響されるということは、それだけリスクを含んでいるということでもあります。

こういった点を批判的にとらえて、中央銀行の金融政策の裁量を制限しようとしたのがフリードマンに代表されるマネタリストです。マネタリストの主張は、中央銀行は裁量的な判断は経済発展の不安定性・不確実性をもたらすものであり、マネーストックを一定の割合で増やすことさえ保証すれば金融の安定には十分であるとしました。マネタリストは1980年代初期においては影響力を持ち、アメリカの中央銀行的存在である連邦準備銀行も、通貨総量の目標達成を重視することを打ち出しました。しかしその後、連邦準備銀行は不況に対応するため従来の裁量的金融政策を実行しました。このときマネタリストは、このような裁量的金融政策がインフレの加速や大不況を引き起こすと予測し強く批判しましたが、結果としてインフレ率は安定し景気も回復したことから、マネタリストの予測は外れたものとみなされ、その影響力は大きく後退しました。マネタリストの主張は、いわば機械的ルールの導入であり、中銀の独自の判断や裁量といった独立性を否定する方向に結びつきますから、彼らの影響力が低下したことは中銀の自主独立性を高める方向へ結びついていきます。

基本的関係として、政府は産業界の代表者としての側面を持ちますから経済成長を推し進めるべくインフレを推進するしやすいのに対し、中央銀行は金融のテクノクラートとしてインフレを怖がります。このことは、中銀は利上げに関して予防的に早期に対策を打つ傾向があるのに対し、利下げに関しては遅くなる傾向を生み出します。トランプはしばしばFRBに対して利上げに対して抑制的になるよう牽制しますが、このような対立はいわば構造的なものともいえます。アメリカは80年代末の不況を92年末に回復基調へ転換させましたが、このときもFRBは、実際に物価は上昇していないにもかかわらずインフレの復活を早々に懸念し利上げを実施し、それに対する批判が社会からなされました。

また、中央銀行の独立性に対する牽制も、ある種の伝統的な枠組みだといえます。マネタリストが台頭した70年代80年代初頭は、そのような中銀に対する批判的動向として位置づけられますし、そもそも経済成長を推し進める主張は国民の支持を得やすく、それに対し専門的で国民生活にとって身近な存在ではない中銀に対する批判は受け入れられやすいともいえます。そしてそれゆえに、中央銀行の独立性を確保する制度的な担保は様々な面から構築されています。時としてドラスティックな未来を予想する報道が特にアメリカのトランプとFRBに関してはなされますが、この対立はいわば伝統的なものともいえ、その独立性が大きく変革されるような事態は実際にはそうそう起こらないと考えてよいと思います。

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