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10 為替のトレンド発生要因

10.10 日本国債暴落論について

日本に莫大な借金があるという報道を、一度は目にしたことがあるでしょう。実際、歳入以上の歳出分と既存国債の利払い分とを大量の国債発行で補う会計は、ここ30年以上一貫して行われています。この問題点は主に二つあります。

①不況を招く

国債は財政不足を補うために発行するわけですが、発行しすぎると需要より供給が多くなり、価格が下落・利回りが上昇します。これは、リスクオンとして国債の需要が少なくなり価格が下落・利回りが上昇する場合とは状況が異なります。

国債の供給が多すぎたために価格が下落・利回りが上昇し、その結果として長期金利が上昇すると、個人や企業は高い金利を敬遠して大きな買い物や設備投資を手控えます。そうすると、市中に流通するお金が減り、金融引き締め効果が出てしまいます。景気が過熱している場面での引き締めは異常なインフレを防ぎ経済システムを保護する点で必要な措置ですが、特に景気が良い訳でもないのに引き締まれば当然に良くない結果を招きます。すなわち不況です。

また、対外的には、供給過多を原因として不相応に高くなった国債の利回りを狙い目とみて日本国債を購入すべく円を買う人が多くなり、円高が進行し輸出が不利になります。その一方、対内的には、日本国債の利回りが不相応に高くなった結果、リスクをとって日本株式に投資する人が減少します。中には株式を売り国債に乗り換える人も出てきます。貸本主義社会の中心は株式会社ですから、株式にお金が流れなければ経済の成長性が大きく削がれます。

このように需要過少ではなく供給過多による国債価格の低下・利回りの上昇は、経済に悪影響を与えます。ではどう対処するかというと、これは以前に説明したとおり、金利が高くなりすぎたと判断した中央銀行が買いオペを通じて操作するわけです。買いオペを通じて、政策金利だけでなく国債も価格が上昇・利回りが低下しますし、市中の金融機関に多くのお金が行き渡ることで金利一般が低くなります。リスクオン時に上昇した金利を調整すべく買いオペを行う場合は景気の維持のためですが、供給過多によって金利が上昇した場合の買いオペは不景気からの脱出手段としての意味をもちます。

とはいえ、この買いオペを通じた金利操作により必ずしも景気がスムーズに回復するわけではないことは、現在の日本を見れば明らかです。日本のインフレターゲット2%はいまだ達成できていません。このように大量の国債を発行し続けることは、構造的な不況に陥る恐れがあり、これに②の財政破綻の危惧が加わることで、日本国債の信用が劇的に低下し価格が暴落するのではないかとの見解があります。

②財政破綻を招く

これは、1000兆にも及ぶ国債の発行量を考えれば、返済はもはや不可能で、いずれ債務返済不能、すなわちデフォルトに陥るという指摘です。1000兆という金額だけでも天文学的数字ですが、現在の量的・質的緩和のもとでは、日銀が大量に国債を買い上げることで低金利に誘導しています。この緩和をいずれ縮小する段階において、日本国債の購入主体が日銀以外の機関へと円滑に入れ替わるかどうか不安があります。国債とは借金ですから、貸し手となる者、つまり国債の購入者がいなければなりません。しかし、低金利に押さえ込まれた国債の購買意欲は、現状では日銀以外は冷えきっています。貸し手の需要の低下は国債の価格暴落・利回り暴騰につながり、歳入以上の歳出分を国債の発行によって補うという現在の会計モデルが崩壊する恐れがあるという見解です。

反論

これに対する反論は、主に複式簿記の考え方をベースとします。前提知識が無い方は、一先ず「原因と結果とに関連付けてお金の流れを記録した表」とのイメージを持っておいてください。なお、複式簿記については、株式のトレンド発生原因の章にて解説する予定です。

反論としてまず第一に、日本政府の貸借対照表には負債として巨額の国債がある一方、資産もまた多いことを主張します。道路や大型建物などの固定資産、特許権などの無形固定資産、投資その他の資産として金融資産など、諸外国と比較しても、絶対価額・対GDP比率の両面で、非常に多くの資産を持っています。資産は、損益計算書における収益を生み出します。この点を抜きにして、負債の額だけをセンセーショナルに取り上げるのは均衡を失するというものです。要は、借金した額以上に儲かるのだからいいじゃないかという主張です。

第二に、日本政府と日本銀行とを一体として捉えるべきことを主張します。いわば、政府と日銀とは連結会社のようなもので、連結貸借対照表として考えるべきだとの見解です。現在、国債の大部分は、日本国内で消費されています。しかも量的・質的緩和で買いオペを進めた結果として、実に半分以上を日銀が保有しています。とすれば、国債の償還も利子も、半分以上は日銀に落ちるわけで、そのお金は最終的に国庫へと向かいます。つまり国債は、政府にとっては負債だが日銀にとっては資産であり相殺されるというのです。また、日銀以外の保有分についても、その大部分を日本の機関投資家が保有していますので、結局は国内にお金が落ちる点に変わりはありません。とすれば、国債の莫大な償還や利子の支払いは、マクロ経済学のレベルで考えれば景気に対して中立的意味しか持たず、深く気にする必要はないと主張します。

第三に、日本国債は円建てであり、国債発行権と通貨発行権との主体が同一であるから、デフォルトは起こりにくいとするものです。いざとなれば、通貨の発行量そのものを増やせばよいからです。近年のギリシャ危機は、ユーロ建てギリシャ国債のデフォルトが発生したところ、ユーロの通貨発行権はギリシャでなくECBにあったことがその原因であり、日本の現状とは異なる背景から生じたとものだとする見解です。

以上の三点を主張する立場からは、結局問題は借金の総額ではなく成長率になります。借金が増えるペースよりGDPの成長ペースが高ければ、国家会計としてはさほど問題ではないという見解です。この成長率を第一に置く考えは、量的緩和によりインフレターゲットを達成することで景気を回復させる考えと相性がよいこともあり、強く主張されます。

再反論

第二の反論を簡潔にまとめると、日銀と政府とを一体として捉えればそれぞれの負債と資産とで相殺される、償還も利子も日銀が受け取るのであれば最終的に国庫に行く、日銀以外の保有主体も日本の投資機関だから償還も利子も日本国内にとどまるので問題ない、とするものです。しかし、これをもって経済に対する影響がないとするのは乱暴だという再反論がなされます。仮にその流れの全てが一瞬で完結するならば確かに問題ないですが、実際にはタイムラグが発生するからです。現在の量的緩和も、マネタリーベースを増やすことで最終的に金融機関を除いて市中に出回るお金の総量であるマネーストックの増大を目的としています。国債のお金の流れがたとえ国内で完結されるものだとしても、その過程の途中で政府なり日銀なり金融機関なりの口座に収まりマネーストックに含まれないお金、つまり市中に出回らないお金が大量に発生することになります。その間に景気の停滞が生じることは必然であるとする主張です。

この立場からの総合的な見解は、肝心のGDPの成長率が全然伸びていないにも関わらず楽観的すぎるというものです。それを量的緩和によってこれから達成するのだと再々反論がなされるのでしょうが、2013年4月より6年以上経過し、なおも物価上昇率が1%未満の現状をみると、不安を覚えるのも止むを得ないところがあります。

デイトレーダーとして

デイトレーダーとしては、このような様々な意見があると知覚していることが重要です。何らかの契機にこれらの意見の一部を過度に拡大した報道のもとで、売り仕掛けがなされる可能性は留意しておくべきです。特に日本国債の格付けが低下する局面では過剰な報道がなされる傾向があります。その際でも、事前にこの問題をめぐる全体像が把握できていれば、それが本当に重大事なのかそれとも仕掛けの口実であるかは容易に判断できます。徒に疑心暗鬼に陥らぬよう、デイトレードとは一見関係ないような巨視的視点の議論であっても、一通りは理解しておきましょう。

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