日本銀行 金融緩和

10 為替のトレンド発生要因

10.14 日本銀行

ここで一旦、アメリカと日本との中央銀行について、金融政策の内容ではなく、制度・組織・業務の面から整理をしておきたいと思います。最初に、日本銀行について述べます。

政策委員会

日本銀行の最高意思決定機関が政策委員会です。日本銀行の重要な金融政策は、政策委員会による会合にて決定されます。なお、議決は多数決の方式によります。

金融政策決定会合

政策委員会の会合のうち、金融政策の運営に関する事項を審議・決定する会合が金融政策決定会合です。議事内容は、①金融市場調節方針②基準割引率、基準貸付利率および預金準備率③金融政策手段(オペレーションにかかる手形や債券の種類や条件、担保の種類等)④経済・金融情勢に関する基本的見解等となります。

年八回、それぞれ二日に渡って開催されます。なお、2020年の開催予定は、以下の通りとなります。

開催日 「主な意見」 前回の議事録要旨 「経済物価情勢の展望」
1月20・21日 1月29日  ○ +中間評価
3月18・19日 3月30日 3月25日
4月27・28日 5月12日 5月7日  ○
6月15・16日 6月24日 6月19日
7月21・22日 8月3日 7月29日  ○ +中間評価
9月16・17日 9月23日 9月24日
10月28・29日 11月9日 11月4日  ○
12月17・18日 12月29日 12月23日

二日目の会合終了後に「当面の金融政策運営について」と題された文章の公開がなされます。注意すべき点として、この発表は議論が終了次第行われる点です。凡そ正午以降となりますが、正確な時間は決まっていません。その後、同日の15:30から総裁定例記者会見が行われます。金融政策決定会合から三日後の8:50に、前回の会合の議事録要旨が公表されます。さらに六営業日後の8:50に今回の会合の議事録の速報である「主な意見」と題された文書が公表されます。

年八回の開催のうち、一月、四月、七月、十月については「経済・物価情勢の展望」が発表されます。「経済・物価情勢の展望」について、基本的見解は「当面の金融政策運営について」と同時に、背景説明を含む全文は翌営業日の14時に発表されます。このうち、一月、七月については、前回の「経済・物価情勢の展望」について上ブレ、下ブレが発生していないか「中間評価」が発表されます。

デイトレーダーとしては、少なくとも開催日と発表日時をそれぞれ把握していることが求められます。何も知らないままトレードしていたら突然値が大きく動いたという事態は避けなければなりません。

政策委員会委員

金融政策決定会合において議決権を持つ政策委員会委員は現在九名います。量的・質的金融緩和は、その継続性の期待をもってインフレ期待を呼び起こし、もって実際の物価上昇につながる側面があります。とはいえ、無制限に行うわけには当然いきません。そのバランスがどこにあるかを考える際、政策委員会のメンバーの入れ替えが起こった時に前任者と比較して新任者がどのような考えの違いがあるかを知ることで、現在の日銀の方向性をある程度探ることができます。また要人発言の際にも、どの立場からの発言であるかは解釈に影響を与えます。さらに金融政策決定会合は多数決で運営されるため、どの委員か賛成しどの委員が反対したかを把握することで、日銀内が一体なのかそれともに温度差があるのかを知ることができます。デイトレーダーとしては、特に要人発言に際しなるべく短い時間でその意図を判断できるよう、簡単でいいので各構成員の学歴・経歴・立場を把握しておく方が良いと思います。

総裁:黒田東彦(くろだはるひこ)=東京大学法学部卒。大蔵省出身で、アジア開発銀行総裁を経て日本銀行総裁に就任しました。現在の任期は2023年4月8日までとなります。2013年4月の量的・質的金融緩和を契機とし、大規模緩和を進めてきましたが、これ以上の追加緩和に関しては慎重な姿勢が見て取れます。

副総裁:雨宮正佳(あまみやまさよし)=東京大学経済学部卒、オックスフォード大学修士課程修了。日本銀行に入行し、金融政策の企画立案に中心的な役割を果たしてきた、実務に精通した人物です。2023年3月19日までの任期です。2001年3月から2006年3月にかけての量的緩和、2013年4月の質的・量的緩和、2014年10月の追加緩和、2016年1月のマイナス金利導入、2016年9月の長短金利操作のいずれにも関わっており、次期総裁候補と目されています。

副総裁:若田部昌澄(わかたべまさずみ)=早稲田大学政治経済学部卒、同大学院修士過程修了、同大学院博士単位取得退学、トロント大修士課程修了、同大学院博士課程単位取得退学。早稲田大学大学院教授から日銀副総裁へ任命されました。2023年3月19日までの任期です。金融緩和を強く主張するリフレ派です。

審議委員:原田泰(はらだゆたか)=東京大学農学部農業経済学科卒。経済企画庁に入庁後、大和総研、早稲田大学大学院教授職から日銀政策委員会審議員になりました。2020年3月25日までの任期です。強力なリフレ派です。

審議委員:布野幸利(ふのゆきとし)=神戸大学経営学部卒、コロンビア大学大学院修了。トヨタ自動車で代表取締役副社長、相談役をつとめ、審議委員となりました。2020年6月30日までの任期です。日本を代表する輸出企業出身者ですから、円安志向が強いと目されています。

審議委員:櫻井眞(さくらいまこと)=中央大学経済学部卒、東京大学大学院博士課程単位取得退学。日本輸出銀行入行後、エコノミストとしての経歴を経て審議委員となりました。2021年3月31日までの任期です。金融緩和に積極的とされます。

審議委員:政井貴子(まさいたかこ)=実践女子大学文学部卒、法政大学大学院修士課程修了。外資系金融機関を経て新生銀行失効役員から審議員入りしました。2021年6月29日までの任期です。実務的なマーケット分析に長じていると評されます。

審議委員:鈴木人司(すずきひとし)=慶應義塾大学経済学部卒。三菱銀行入行後、そのまま三菱東京UFJ銀行の副頭取、顧問等をつとめ、審議員入りしました。2022年7月23日までの任期です。金融緩和は低金利を誘導しますから、銀行の立場からみれば多くの貸出をしなければ収益が上がらなくなります。特にマイナス金利は銀行の収益を直接に負の影響を与えます。その出身母体から考えると、緩和政策に慎重な立場であると考えられます。

審議委員:片岡剛士(かたおかごうし)=慶應義塾大学商学部、同大学院修士課程修了。三和総研入社後、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの研究員から審議委員となりました。2022年7月23日までの任期です。更なる金融緩和を進めるべきとする非常に強力なリフレ派です。

統計作成・研究

日銀は、実体経済の把握を目的に統計の作成業務を行っています。その種類は、物価上昇率、金融、国際収支、企業動向など多岐に渡りますが、デイトレーダーとして関心を置くべきものの一つとして、短観があります。正式名称を「全国企業短期経済観測調査」といい、全国の企業動向を把握することを目的としています。四半期ごとに、8:50に発表されます。直近の短観要旨公表予定日は以下となります。

短観の概要及び要旨の公表予定日
2019年12月13日
2020年4月1日

短観の中で注目すべきは、「事業計画の前提となっている想定為替レート(大企業・製造業)」です。これは企業が事業計画を立てる際に前提となる各社の予想レートの平均です。下方修正を嫌い、輸出企業は円高気味に輸入企業は円安気味に設定する傾向が一般にありますが、全てを飲み込む平均値は現在のレートと比較することでそれなりに参考になる部分があります。また、調査後から公表日までに、為替レートに大きな変動があった場合に、予想レートとのズレが日本経済にとってプラスになるかマイナスになるかで短観発表日以後の株式の地合いに影響を与えることがあります。例えば想定為替レートが100円であったところ、その後何らかの原因で110円まで円安が進行したとします。輸出企業はこれだけで為替差益が発生し大幅に営業利益が伸びますから、このまま為替レートが維持されれば想定以上の良い決算が期待できます。とすれば、輸出企業が支える側面が大きい日本経済にとってもプラスなので、もし想定為替レートが市場が予想していた以上に円高だった場合には短観発表日以降の日経平均の地合いが良好になる、といったことがあります。なお、2019年10月に公表された短観では、想定為替レート(大企業・製造業)は下期108.50となっています。

短観の中でもう一つ注目すべき点として、「業況判断」があります。景気が良いと感じている企業数ー景気が悪い感じている企業数 として表される指数で、Diffusion Index=DIとも呼ばれます。この中でも特に大企業・製造業の数値が注目されます。日本経済に与える影響が大きい大企業の中でも、製造業は景気に対する感度が敏感だからです。なお、2019年10月の短観では、良いと応えた企業数16-悪いと応えた企業数9=7で、前回より-2となっています。これは米中貿易摩擦の煽りを受けて、中国市場への懸念がでたためだとされます。この指数は単純に前回比だけでなく市場コンセンサスとの対比によって受け止められ方が異なります。デイトレーダーとしては現実の値動きを重視すべきであり、印象に引きずられないよう注意する必要があります。ただ、企業の生身の感覚がマクロ視点で図れる指標ですので、さらっとでよいので見ておくと良いでしょう。

各種統計については、別節にて改めて解説しますので、ここでは日銀が様々な統計を作成し、それを元に金融政策の判断をしていることが理解できれば十分です。

統計作成業務の他にも、日銀は金融・経済に関する研究およびその発表を行っています。アカデミックな色彩の強いものから実務的なものまで幅広くあり、ホームページで公開されています。

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