本節以降では、具体的にトレンドの機能について解説していきます。トレンドには転換点とトレンド判断との要素があるところ、まず転換点について検討していきます。
トレンドの転換点をいかに適切に判断できるか
デイトレードにおいては、トレンドの転換点を見抜くことが重要
前節9.2 トレンド継続性の原則で解説したトレンドの継続性を前提とすると、デイトレードのトレンド判断において最も重要なことは、トレンドの転換点をいかに適切に判断できるかです。一旦発生したトレンドは継続する傾向があり、保ち合いに移行した場合でもそのブレイクは以前のトレンドを引き継ぐ方向で発生する可能性が高いとすれば、トレンドの発生点、すなわちトレンドの転換点を判断できれば、以後は次の転換が生じるまで、原則としてそのトレンドに従うなら順張り、逆を狙うなら逆張りと判断できるようになるからです。
トレンドラインによるトレンド判断だけでは足りない
ここで、トレンドの転換点を理解する重要性について今一度述べておきましょう。トレードにおいてはトレンドの把握が重要であるところ、トレンドの判断といえばトレンドラインを引くことだと考えるのが一般です。これはもちろん間違いではありませんし、本来の字義的にはその通りなのですが、デイトレードにおいてはこの理解だけでは少し問題があります。
というのも、トレンドラインは最低限二点の谷もしくは山があれば描画できますが、デイトレードレベルの場合、誰の目にも明らかなトレンドラインや平行チャネルが形成された後では、長い時間が経過している分、トレンド崩壊の可能性も高くなり、そのトレンドが以後も継続するかについての信頼性は既に低下しています。トレンド判断は後から相場を振り返って、ああ上昇トレンドだったんだな、下降トレンドだったんだな、と分析するだけではトレードにおいての有用性はありません。トレンドラインは後からチャートを振り返り説明する場合には便利なのですが、リアルタイムで進行するマーケットにおいて具体的な売買手法として組み込むには、判断が遅くなってしまいます。
大きな時間足に基づく長期投資においては、トレンドが維持される時間もより長大になりますので、トレンドラインによる判断でも利益を獲得できる期待は高くなります。たとえば月足レベルで明確なトレンドが発生すれば、これはそうそうと崩れることがない骨太で重厚なトレンドですからそのトレンドラインを信頼してトレードすることができます。しかし、デイトレードの時間軸においては、トレンドラインによる判断よりも転換点による判断がより重要となります。
もちろん重要なトレンド転換は、しばしば大きなトレンドライン上で発生します。例えば、上昇トレンドの中にある価格が一時的な調整で下落したものの大きな時間足の上昇トレンドラインをサポートとして反発する場合、その反発ポイントをより小さい時間足で観察すると上昇の転換点を示すサインがしばしば発見されます。大切なことは、このときに、上位足のトレンドライン上に価格が来たからという根拠だけでロングエントリーしてはならない点です。はっきりとしたトレンドラインは、皆に意識されることでサポート・レジスタンスとして機能する可能性がありますが、同時に、一定程度の時間が経過しているぶん崩壊する危険性もあります。この両者の分かれ道を区別する手段なく、単にトレンドライン上に価格が来たからといってポジションを持っては、ギャンブルになってしまいます。ギャンブルにならず根拠をもって確率的優位性のあるトレードをするためには転換点を理解することが必須となります。
リアルタイムで判断できる必要がある
デイトレードにおいては、トレードにまつわる判断はリアルタイムで行う必要があります。もちろん、後から既に描画されたチャートにトレンドラインを引いたりファンダメンタル要因を分析することでリアルタイムに行った見解を検証に基づき修正していく作業は必要です。しかし、実際のトレードにおいて有用性を持たせるためには、値段が刻一刻と変化していく中で判断しなければなりません。
長期投資と異なり短期間での取引が中心になるデイトレーダーにとっては、転換点の判断はトレード判断そのものといえます。逆に言えば、転換点を理解しさえすれば、トレードをするための焦点となるポイントが明確になりますので、簡潔かつ迅速に一定の確率的優位性をもったトレードが行えるようになります。その意味で転換点の理解は、デイトレードにおける最重要課題の一つです。
転換点の判断の方法
以下の節においては主要な転換パターンを個別具体的に検討してくこととなりますが、ここではその全体に共通する前提を述べておきます。
トレンドの転換は、多くの場合、なんらかのサポートやレジスタンス付近で生じます。具体的には、トレンドライン、高値安値の平行線、フィボナッチ係数に基づく平行線、心理的に章目となる数字などです。その付近でトレンド転換が生じる可能性を予測し、その予測のもとに仮説をたて実際の値動きを観察し、実際に転換の兆候が生じているかを判断していくことになります。もちろん、全てのサポートやレジスタンスを把握することは不可能ですし、自分が想定していなかった価格帯において転換の兆候が生じることはあるでしょう。その場合は事後的に判断していくこととなりますが、理想的にはトレンド転換の予測のもとに実際の値動きを観察し判断するという流れになります。少なくとも想定していない時点で転換らしき兆候が生じた場合、転換の可能性を考慮しつつも新たなエントリーは原則として控えるべきでしょう。
転換点がトレンドの発生点であるからには、そこにはある兆候が発見できるはずです。次節以降においては、そのようなリバーサルパターンについて具体的に考察していきます。
▷次節:9.4 ダブルトップ