今まで、利小損大の戦略方針を定め、それを踏まえてトレードモデルを構築してきました。いわばトレードの中核部分に焦点を当てて考えてきたわけです。ここからは、より全体的で大きな流れ、すなわちトレンドを考えていきます。トレンドは、株式・為替・暗号資産のそれぞれのマーケットにおいても、また各銘柄や各通貨においてもそれぞれ特徴があります(10章以降~)が、最大公約数としての共通項となる要素が存在します。したがって、まずはこの原則としてのトレンド論を戦略的基準として理解しておかなくてはなりません。これが本9章の役割となります。
トレンドの意義
一般的局面:エントリーの基礎条件
トレンドは、トレードの根拠として、またトレード環境として、最も重要かつ基本的な要素の一つです。従って、トレンドが理解できていれば、戦術的局面が当てはまらない一般的場面においてもトレンドを根拠にしたポジションを持てるようになり、エントリーの機会を飛躍的に増やすことができます。戦術とは、連続する動的局面の中から一方向へのトレンドの発生が強く見込める特殊な局面を切り取ったものです。そのような戦術としてのトレンド判断ができない場面、すなわちトレードの大部分を占める平常時において、いかに確率的優位性のある決定ができるかは、トレンドを正確に認識できるかにかかっています。その意味で、トレンド論は原則であり、戦術論は特則であると言えます。これをもって、9章以降のトレンド論を通じ、戦略論と戦術論との有機的統合がなされることになります。
特殊局面:戦術の有効性を高める
トレンドに対する深い認識は、特殊な戦術的局面においても利益獲得の助けとなります。なぜなら、トレンド論と戦術論とは、重ね合わせて考えることができるからです。両者の判断が一致すれば、それはより強いサインと評価できますから、より強気なエントリーやポジションサイズを考える余地がでてきます。
そもそも、戦術を用いる場合であっても、価格の流れの背景にある原因を順序立てて丁寧に認識しておくことは極めて重要です。このような意識を持たずにいると、現在のチャートがある特定の戦術的局面に当てはまるかを機械的に抜き出し反射的に飛びつくだけの底の浅いトレードしかできなくなってしまうからです。
トレンドの二つの側面
トレンドは、従来のトレンドが反転する時的ポイントを如何に認識するかという転換点と、発生したトレンドが継続する様を如何に捕捉していくかというトレンド判断との二つの側面があります。トレンド転換はよりトレードに直結した要素であるのに対し、トレンド判断は一義的にはトレードの前提となる環境を見定めるものです。
転換点
適切なポイントで適切なポジションを取り利益を獲得するため
永遠に継続するトレンドは存在しません。どこかの段階で、それまで続いたトレンドは終了し逆方向へと進むときが来ます。その際、従前の上昇トレンドの天井圏、下降トレンドの大底圏では、トレンド転換を示すサインとして特定のチャートパターンが高い確率で現れます。したがって、最低限、この転換点さえ見抜くことさえできれば、適切なポイントで適切なポジションを取り利益を獲得することができます。
しかし、ただ単にそうしたパターンの形だけを知っていたとしても、おそらくは中々思ったようにいかないと思います。後から「ああ、ここでヘッドアンドショルダーが出て反転したんだなあ」と認識するだけなら形を知っているだけでもできますが、デイトレーダーは長期間をかけて形成されるチャートパターンよりも相対的に信頼性の低い歪な形を描画途中のリアルタイムの段階で認識できなければならないからです。最終的に「川」と認識するにせよ、それ以前に「連続して流れる水の動き」としてのアプローチを意識しなければ、動的なダイナミズムに接近し現象の本質に迫ることはできません。
単なるパターン認識に止まらず、内部で何が起こっているのか、どういった原理で生じるのかを考えることによりその現象の趣旨を理解し、反転現象が生じる特異点を的確に見抜けるようになることがデイトレーダーとして生き残るためには必須です。
転換点は、多くの場合、なんらかのサポート・レジスタンス上において発生します。デイトレードのサポート・レジスンタスは長期と比較してただでさえ短い期間で形成された信頼性の低いものであり、しかも反転サインはそれよりも更に小さい時間足で形成されることが多いため、繊細な分析が必要になります。具体的には、予測と認定と検証、すなわち転換点が形成される兆候を如何に素早い察知し予測するか、転換パターンの完成を如何に正確に認定するか、完成した転換点の有効性を如何に検証するか、といった視点から考えることが必要です。
トレンド判断
トレンドに沿った売買で救出可能性を高めるため
デイトレードといえど、トレンドに沿った形でポジションをとることが原則です。最も理想的な形としては、中長期トレンドに沿い、リアルタイムのトレンドにも沿った形でポジションを建てることができれば、例え一時的に含み損になったとしても、救出可能性は高いものとなります。一方、利益獲得可能性の拡大の観点から、逆張りを禁止する趣旨ではありません。ただ、逆張りは不完全条件下での執行として処理されるべきものとなります。
条件反射的トレードを防止するため
発生したトレンドは、途中で小休止を挟むことはあるにせよ、原則として継続していきます。これを追尾し捕捉することで、不安定に揺らぐ価格の動きをある程度予測できるようになります。
価格は波動の性質がありますから、直線的な上昇あるいは下降を示すことは非常に希です。たとえ、ある時間足で直線的な陽線陰線が出現しても、より小さい時間足で分析すれば価格の揺り戻しが観察されます。従って、自分がトレードする時間軸におけるトレンドを大局として掴んでおかなければ、目先のせいぜい数十秒から数分程度の目立つ価格の動きだけに意識が奪われてしまい、僅かな価格の上昇やちょっとした価格の下落に動揺し、条件反射で反応して買いや売りを入れてしまいます。そして、波の性質があるということは小さい反転を繰り返すということですから、価格は逆行し、それにまた動揺して底値で売却、高値で買戻ししてしまいます。このような条件反射的トレードを防ぐためには、事前にトレンド判断を正確に行っておく必要があります。
押し目買いと戻り売りを現実に実行するため
「押し目買いと戻り売り」とよく言われ、実際その通りですが、これは言うほど簡単ではありません。単に意識しているだけではできるようにはなりません。そもそも悠長に押し目買い・戻り売りしようとして容易に売買できる時点で、既にトレンド転換している可能性の方が高くなります。押し目買い・戻り売りのベストポイントは、時間的に一瞬しか価格をつけない場合も多く、後からチャートをみれば「ここがベストの買い場・売り場だな」と思っても、リアルタイムの進行中で実際に押し目と戻り売りのポイントでポジションを持つためには非常にシビアで繊細な作業が必須になります。これを実行できるようにするためには、的確なトレンド判断に基づき、価格の動きに対する予測が必須となります。