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5.1 サポート・レジスタンスを基本的にどう認識すべきか

実際の売買の多くは、トレンドラインや高値安値の水平線など、なんらかのサポートやレジスタンス付近でなされます。とすれば、それらの性質を十全に理解しておくことが正しい戦略的判断を下す上で重要となります。そこで5章では、サポートとレジスタンスの意味を掘り下げて考えていきたいと思います。

利大損小戦略の観点から解釈していくことが必要

ここでも前提となるのは、「利小損大」の基本戦略です。利小損大は、リスクリワード論を、利益と損失との価額の比較ではなく、利確可能性と損切り可能性との確率の比較で考える戦略です。この戦略のもとでは、損切りの実行をなるべく回避しつつ、どうしても必要な場面では適切かつ確実に決済しなければなりません。とすれば、サポートとレジスタンスも、このような目的に適合するように解釈され利用されなければなりません。小さくとも確実に利益を確保し、なるべく損切りに至らぬよう救出可能性の高いポジションをとるために如何に利用できるかという観点が重要となります。

「サポートとレジスタンスは基本的に機能する」と仮定する

サポートやレジスタンスに信頼を置いた方がよい

結論からいえば、利小損大戦略のもとでは、サポートとレジスタンスとは基本的に機能するとの認識が重要です。もちろん、サポートやレジスタンスが破られることは、複数の時間足のトレンドラインや高値安値の水平線を観察した場合、日常的な現象です。しかし、それでもなお、たとえその信頼が実際の確率と比較し過剰だったとしても、サポートとレジスタンスに信頼を置く方が長期試行性のもとでは高いリターンに帰着します。サポートとレジスタンスに従う方が、小さくとも利益がとれ、仮にブレイクが発生して含み損となる場合でも救出可能性が高いポジションになるからです。つまり利小損大の基本戦略と合致するのです。

デイトレードでは非常に多数の売買を行います。従って、戦略的基本モデルを構築する際には、収益額の最大化の可能性よりも、確率的優位性があり仮に含み損となっても正しい認知のもとで適切に処理できるかを重視すべきです。利は大きくなくとも、損切りの可能性を少しでも減らし、必要なときには適切かつ確実に実行できれば、資金は増えていきます。

根拠なくブレイクを恐れない、根拠なくブレイクを期待しない

「サポートとレジスタンスに信頼性を置く」、これは当たり前なことと思われるかもしれません。しかし、サポートやレジスタンスを単なる節目程度と無意識に軽く考えている方は散見されます。そのような認識では、レジスタンスやサポート付近にまで値が実際に近づいた場合、もしかしたらブレークするのではないかという期待恐怖に絡み取られてしまいます。置いていかれるのではないか若しくは含み損が更に広がるのではないかという焦燥感は、認知を歪ませます。このような利小損大の観点からは確率的優位性のない恐怖や期待、すなわち認知の歪みを生じさせないために、サポートやレジスタンスは単に節目となる価格帯という意識ではなく、強固な城壁が存在しているイメージを頭に焼き付けておく必要があります。

利小損大の戦略的優位性は、利大損小に比べ、認知の歪みがはるかに生じにくい点にあります。大きい利を狙おうとすると、サポートやレジスタンス付近でブレイクを期待するようになり、認知に歪みが生じやすいのです。そうなると、無意識のうちに、確率的な正しさよりも自分にとって都合が良いのはどちらかで判断を下すようになってしまいます。長期トレードならこれらの誤謬は時間が消化しますが、短期トレードにおいて適切に処理することは非常に困難です。

言い換えれば、サポートやレジスタンスが機能すると仮定した売買は、その後の実際の値動きがどうなろうと、利小損大の観点からは最低限の根拠をもつトレードであり完全には間違った判断ではなかったと評価できます。言い換えると、なんらかの戦術的根拠もないのに、ブレイクへの焦燥感や期待感に左右された売買をしてはならないということです。

ブレイクを期待した売買は戦術的局面のみで行う

重ねて強調しますが、これは当然のようで重要な視点です。基本的戦略をもとに個別の局面で戦術を用いる思考方法は、原則論を基礎に一定の局面で特別論を重畳的に用いる思考方法です。原則論の理解なしに個別の戦術を用いると、その戦術が適用される場面では極めて高い収益を収めるものの一旦その局面が去ってしまうと全く利益を獲得できなくなってしまいます。戦術という特別論を有効に用いるべく、サポートとレジスタンスの機能期待性に従うという原則論が重要になります。利小損大を思考の出発点とし、サポートとレジスタンスは機能する可能性が高く、それゆえブレイクは例外と考えるべきです。換言すれば、戦術的な根拠なくブレイクを期待してはならないということです。ブレイクを安易に期待しレジスタンス付近でロングを持ったりサポート付近でショートを入れると、ブレイクが起こらなかった場合にそのポジションの救出可能性は低いものとなってしまいます。また、騙されたとの憤怒の感情を抱きやすく損切りの実行が遅れがちになります。これでは、損切りの可能性が高まり、その損失額も大きくなってしまいます。

有効に用いるために

単にレジスタンスやサポートの存在を把握しているだけでは、有効に用いる事ができません。知っていることとそれを行動に結び付けられることとは別次元の問題です。実際の売買行動における判断基準として働かなければ意味がありません。サポート付近には大量の買い注文が、レジスタンス付近には大量の売り注文が控えており、特別な事情がない限りはこれらのラインは機能するものだとの前提でトレードする方が最終的な収益は高くなるという確信をもつことです。人間は、合理的だと理解していることを必ず実行できるわけではありません。如何にトレンドラインを正確にひき安値と高値のラインを描画したところで、いざ値がその付近に到達したときに、恐怖心や焦燥感にかられ、その結果とるべき行動をとれないのでは意味がありません。サポート付近で躊躇し、やはりサポートが機能したのを確認した後にやっぱり買っておけばよかったと嘆くだけでは、利益を獲得できるはずもありません。

ロングをレジスタンス付近で、またはショートをサポート付近で利益確定したもののその後ブレークし、ああ持っておけばよかったと思った経験は誰しもあるでしょう。しかし、これは利小損大の戦略をとる以上、どうしても生じうる内在的な性格です。如何なる結果に終着するのであれ、ロングの場合ならサポート付近でポジションを取り、レジスタンス付近でポジションを決済する行動は誤りではありません。長いトレード生活においては、必ず確率的に高いリターンに帰結します。特に、ブレイク後にその心理的損失を取り戻そうとセオリーを無視した巨大なポジションを取ってしまうことは絶対に避けなければなりません。

レジスタンスとサポートの観点から利小損大を解釈するのならば、レジスタンスとサポートのブレイクを期待せずその機能の期待性に従ってトレードする戦略だと定義できます。ここがはっきり意識できていないと、ブレイクを期待する戦略、つまり利大損小との戦略的混同が無意識に生じてしまい、ともすれば損小損大に終わってしまいます。大切なのは各要素を有機的に理解し、統合された一貫性のある戦略に纏め上げることです。まずは、「レジスタンス・サポートが機能する可能性>ブレークする可能性」であることを脳に徹底的に刷り込み、思考の出発的とすべきです。

▷次節:5.2 心理的背景

-5 サポートとレジスタンス