14.2 オプション取引と為替

オプションの引力

為替において巨額のオプションが存在する場合、権利行使日に向けて徐々にそのオプション価格に吸い寄せられるように価格が収束していく傾向があります。

たとえばドル円にて130円に巨額のプットオプションが存在していた場合、そのオプション権利者は、権利行使日になる前に1ドルが130円以下になればドル買いポジションを作る傾向があります。仮に127円でドルを買った場合、権利行使日が到達する以前に133円に上がれば133円でドルを売って利益確定させることで6円幅の利益が取れます。その後再び130円を割って128円に下落すれば128円で再びドルを買ってポジション作ります。そして再び権利行使日が到達する前に132円にあがれば132円でドルを売って利益確定させることで今度は4円幅の利益が取れます。その後にまた下落し129円になったら、再び129円でドル買いポジションを作ります。今度はそのまま権利行使日までに126円に下がったとしても、129円のドル買いポジションは3円幅を損する一方で、130円のプットオプションを行使すれば4円幅の利益が取れ、差し引き1円幅分の利益が残るから問題はないわけです。

このようにリスクを限定させつつお金が儲かるわけですから、巨額のオプションの権利者は、権利行使価格の下に価格があれば買い上に価格があれば売る傾向があります。結果として、価格はだんだんと権利行使価格に収束されていきます。つまり権利行使価格を挟んで価格が上下に行ったり来たりする傾向がでてきます。

バニラオプションとエキゾチックオプション

バニラ・オプション

バニラオプションとは、通常のオプション取引です。

日本のメーカーが、アメリカに車を輸出した場合をモデルケースとして考えてみます。この時、代金についてアメリカ側から「1か月後にドルで支払います」という申し出がありこれを了承したとします。つまり、日本のメーカーが実際にお金を手にするのは1か月後となり、しかも円ではなくドルであり、円にするためにはドルを売って円を買う必要があります。ここで注意しなければならないのは、変動為替相場制のもとでは、円とドルとの相対的価値は常に変動しています。もし1か月後に今よりもドルが安く円が高くなっていれば、メーカーは、商品を売った時点で想定していた儲けよりも少ない円しか手に入らなくなります。たとえば、商品代金が5万ドルで、商品を売った時点におけるドル円相場が1ドル100円、1か月後において1ドル95円としたら、車を売った時点の為替相場で考えれば500万円の代金ですが、1か月後においては、475万円の代金にしかならず、-25万円分の代金を損してしまうわけです。

そのような為替リスクを避けるため、日本のメーカーは「1か月後にドルを105円で売れる権利」を購入してドルが安くなるリスクに備えます。これが「1か月後に権利行使日を迎えるプットオプション(=売る権利)を購入した」ということです。そして、そのオプションに対する代金がプレミアムです。

プレミアムの価格は、将来ドルの価格が安くなってしまう危険性が高いと市場から判断されればされるほど、そして権利行使日が近づくほど、ドルを高く売ることができるプットオプションのプレミアムは高くなっていきます。

エキゾチック・オプション

エキゾチック・オプションとは、通常のオプションとは異なる特別な条件が付与されたオプションです。エキゾチック・オプションの中でも、一定の期間内に一定の価格(バリア)に到達するかでペイオフが決まる契約をバリアオプションといいます。といっても分かりにくいので、以下具体的に述べていきます。

ノックアウト・オプション

バニラオプションの説明で述べたように、オプションのプレミアムは需要と供給により時として高額になります。日本メーカーとしては、オプション取引で為替リスクを限定させたい一方、そのために高いプレミアムを払わなければならないとすればそれはそれで嫌ですから、なるべくプレミアムの価格を抑えたいと考えます。そこで、金融機関は「ある一定のリスクがある代わりにプレミアム価格が安いプットオプションがありますよ」と勧めてくるわけです。メーカーとしては「これはいい金融商品だ」ということで、一定のリスクと引き換えに安くプットオプションの権利を手にすることができ、めでたく為替リスクを回避できることになります。

では、この「リスク」とは具体的に何かといえば「あまりにドルが安くなりすぎた場合は、このプットの権利自体が消滅します」といった条項であったりします。これがノックアウト・オプションです。具体的にいえば、仮にドル円が95.00円(バリア)まで落ちたとしたら、プットの権利は消滅するといった内容です。この場合、95円1銭までであれば、日本メーカーとしては、権利行使日に1ドルを105円で売れるわけですから多額の日本円を手にすることができ万々歳ですが、もし95.00円を付けてしまったら、プットオプションの権利自体が消滅しますから、日本メーカーは権利を行使して1ドル105円で売ることはできなくなります。それどころか、入金された商品代金のドルを円に変えなければならない事情は変わりませんから、やむなく95.00円でドルを売る若しくはリスクヘッジのためにドル売りのポジションを持たざるをえなくなります。つまりプットオプションが消滅することで、ドル売りの需要が高まりますますドル安円高が進んでしまいます。

このように、ノックアウト条項は、それが実現した時点でブレイクに勢いをつける傾向があります。突破されたことを契機としてさらに一段と下落に勢いがつくわけです。

ノックイン・オプション

ノックアウトの逆で、一定の期間内に一定の価格(バリア)に到達したら、そこで初めてオプションの権利が発生するものです。バリアに到達するまではいわば潜在的なものに過ぎず、価格がバリアに到達して初めて権利として実在化します。逆に言えば、バリアに到達しなかった場合は、最初から何もなかったことになります。

期間内に価格が到達すると考えれば、バニラオプションよりも割安なノックイン・オプションを購入することで安くリスクヘッジできるわけです。

ダブルノータッチ・オプション

簡単にいえば、一定の期間に上下の一定範囲(バリア)に価格変動が収まれば、支払った掛け金が増えて戻ってくるというものです。投機的な金融商品であり、身もふたもなくいえばギャンブルです。

この「一定の期間」が終わりを迎える直前期になって価格がバリアに近づいた場合、何とかノータッチ条項の範囲内に防衛してオプションのプレミアムの支払いを受け取ろうとする買い手と、何とかノータッチ条項に抵触させてオプションを台無しにしてやろうとする売り手とが、戦争状態になる場合があります。ダブルノータッチ・オプションは、一度もバリアに到達しなかった場合に利益が得られるからです。これがいわゆる防衛買い防衛売りと呼ばれるものです。

デイトレーダーとしてどう対処すべきか

オプションへの価格の収束には気を払うべき

一つには、巨額のオプション取引が観察される場合には、オプションカットの時間に向けて価格が徐々に収束される可能性があることを考慮に入れておくべきでしょう。ニューヨーク市場のオプションの権利行使の締め切り時間であるオプションカットは、夏時間23時・冬時間00時です。FX会社のニュース配信で、大まかな情報を知ることができるので目を通しておきましょう。

バリアオプションを根拠としたポジションは控えた方が良い

もう一つ、エキゾチック・オプションについては、例えば、ボラティリティも小さく方向感がない相場において「一定のレンジに価格が収まることを見越し、ダブルノータッチオプションが観測される」などといった記事が配信されることがあります。参考情報として気を配るべきではありますが、あまりこの手の情報を参考にしすぎて売買すると痛い目に合うことが多い気がします。

そもそも、ノックアウトやダブルノータッチで権利を消滅させる方向へ仕掛ける筋として、実はオプションを販売している金融機関自身が率先して行っているという話も耳にします。実際、こうしたバリアオプションがある場合、確かにすんなりとは突破されないものの最終的にブレイクされてしまうケースも多い気がします。従って、バリアオプションがあるからこれを背にしてポジションを取ろうとはしない方がいいですし、かといってバリアオプションが突破されることを期待したポジションも持たない方がいいと思います。

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