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5.2 サポート・レジスタンスが機能する心理的背景

「サポートとレジスタンスは原則として機能する」、これを前提として思考を出発させた方がよいことを前節では述べました。そこで、実際にサポートやレジスタンスに値が近づきそれが機能した場合には、マーケット参加者の間でどのような心理展開がなされているかのモデリングを試みます。もちろん、胸の内は各人で異なるわけですが、平均的にみれば、ある特定の心理傾向があるからこそサポートとレジスタンスは機能します。したがって、典型的な心理展開を理解しておけば、サポートとレジスタンスの信頼性をより正確に判断できるようになります。

サポート・レジスタンス付近における参加者の平均的な意識

具体的事例と共にみていきましょう。直近の価格が下落中、あるサポートで反発の兆しが生じたとします。このときマーケットの参加者はどのように感じ、その結果どのような状況になるのでしょうか。

サポート付近で反発するだろうと考えていた人

サポートで反発するだろうと強く信じ、実際に買い注文してロングポジションをもった人は、価格が反発する様子をみて「ああ、やはり買いが入った。自分だけではなく他の多くのトレーダーもここがサポートラインと考えているのだ」と感じ、自分の考えが正しかった自信を強めます。よいタイミングで買えたと考え即座には利益確定せず、暫くポジションを保持し利益を伸ばす行動に出る人が多いでしょう。場合によっては更なる買い増しも前向きに検討し、実際に新たなロングの注文を入れることもあるでしょう。

また、サポートでおそらくは反発するだろう考えてはいたものの、実際に売り注文するほどには自信がなく様子見だった人は、価格が反発する様子を見て「ああ、やはり買いが入った。買っとけばよかったなあ」と感じ、自分の考えが正しかったと後悔します。自分の見通しが正しかったことに自信をもてたので、ここから新たなロングの注文を入れることにも前向きあり、その中の幾人かは実際に買い注文を入れるでしょう。

サポート付近でブレイクされるだろうと考えていた人

それに対し、サポートはブレイクされるだろうと強く期待し、実際に注文してショートポジションをとった人は、見通しに反し価格が上昇する様をみて「あれ、何か買いが入ってる。もしかしたら底でショートしてしまったのではないか」との考えが頭の中を逡巡し、焦りを感じます。その中でも判断の早いトレーダーは、素早くショートの損切りの注文、すなわち買い注文を入れてきます。またしばらくは含み損のまま様子を見ようというトレーダーも被害の拡大を招きかねない売り増しは、もう少し時間をおいてからやろうと考えますから追加でショートの注文を入れることには後ろ向きです。

また、サポートはおそらくブレイクするだろうと考えてはいたものの、実際に注文するほどには自信がなく様子見だった人は、価格が反発する様子をみて「あれ、買いが入っている。ショートしなくてよかったなあ」と感じ、自分の考えが間違っていたことを反省します。自分の見通しが誤っていたことから自信を失い、ここから新たにショートの注文を入れることには後ろ向きです。

連鎖的に買い注文が入りやすくなる

以上の状況をまとめると、ロングポジションを利確するための売り注文や新規の売り注文を出すことには後ろ向きである一方、ショートポジションを損切りするための買い注文や新たな買い注文には前向きな状況です。一言で言えば、買い注文は入りやすいのに、売り注文は出にくい状況ということです。買いが入って売りが入らないわけです。こうなると価格はどんどん上昇していきます。かくしてサポートラインが機能することが無事確認されました、めでたしめでたしとなります。

つまり、サポート付近で起こった微かな反発の値動きは、それが呼び水となり、更なる買い注文が連鎖的に入りやすくなるのです。この上、更にそれまではフラットな目線だった慎重派のトレーダーがサポートラインで起こった反発をみてトレンド転換と判断すれば、なお一層の買い注文が入り、本格的に強い反発が生じサポートとして機能したことが一層強く確認されます。こうして確認されたサポートは、日をおいて再びチャートが近づいたときにも、マーケット参加者の中で強く意識されることになります。

このようなマーケット参加者の心理を背景としてサポート・レジスタンスは機能する以上、そう考える人の絶対数が多ければ多いほど信頼性は高まります。つまり出来高が重要となります。サポートとレジスタンス付近での価格帯別出来高が他の価格帯と比較して高ければ高いほど、サポート・レジスタンスとして機能する確率は高まることとなります。

大量の逆指値注文が入っているサポート・レジスタンスは注意

巨大な資金力があるトレード主体が裏をついてくるケースがある

ここで注意すべきは、サポートの僅かに下・レジスタンスの僅かに上には、大量の逆指値注文が入っているケースです。為替やビットコインの場合、これらの情報はオアンダ等で大まかに確認できます。この場合に、その大量の逆指値、つまり損切りを強制的に実行させることで更に値を伸ばし、伸ばしきったところで利確するやいなや、すかさず今度は逆ポジションを持とうとする勢力の存在がしばしば観察されます。

先の例でもう一度考えてみます。先ほどのサポート付近に大量の逆指値注文が観察される場合、巨大な資金力のあるトレーダーはこう考えます。「ここで大量のショートを入れてサポートをブレイクさせれば、大量の逆指値、つまりロングの損切りが発生しさらに勢いをつけて下落するだろう。その大きく下落したところでショートを利益確定させ、しかも同時にロングを入れれば、往復で大きな利益をとることができる」と。そしてこれらの作戦を実行するためには、大量の注文を素早く正確に処理する必要がありますから、必然的にAIの出番となります。つまり、一瞬の間になされます。

したがって、まだポジションを持っていなければ、逆指値の大量の損切りが発生した場合にどの程度価格が動くかを予測して事前に指値の買いを入れておくことが個人トレーダーとしてはとりうる対処法になります。上手くいけば底値でポジションをとることができ、心理的にも安定した状態で利を伸ばすことができます。既にポジションをもっていれば、できる限り底値売り・高値買いの決済にならないように逆指値が決済される場面での価格の動きのパターンを把握しておくことです。

トレンドの発生と勘違いしない

しかし最も大切なことは、このような逆指値が狩られることで生じる大きな価格の変動をみて「強烈なトレンドが発生している!」と勘違いして新規のポジションをもたないことです。ここで勘違いしてしまうと、天井買い底値売りの救出可能性の低いポジションをもつ羽目になってしまいます。

そうならないため、現在のマーケット全体の状況はロングとショートとのバランスがどのようになっているか、ポジションがどちらか一方に傾いていないか、傾きが生じているとしたらどのサポート・レジスタンスか、といったことを常に意識して分析しておくことが大切です。

サポート・レジスタンスにおける逆指値の問題については、次節にてより詳しく検討していきます。

▷次節:5.3 逆指値との関係

-5 サポートとレジスタンス