一ヶ月を通じた時間的要因を説明します。この時間軸については、為替、株式、ビットコインにおいてそれぞれリズムが異なるので、個別に説明します。
一ヶ月を通じた時間要因
為替
為替は、月末のフローが意識されます。債券やアセットは、月末のロンドンフィックスの時点(夏時間0:00、冬時間01:00)における為替相場によって評価されます。とすれば、欧州株と米国株、ユーロとドル、それぞれ当月はどちらがどれくらいの差で上がった下がったかを把握し、国際分散投資においてリバランスがどのように発生するかを予想すれば、一定程度の傾向を捉えることができるでしょう。
たとえば、当月のそれぞれの騰落率を比較し、欧州株は大きく上がったのに対し米国株は下がっているという点に注目するのであれば、上がった欧州株で利益が出た分を売って、その利益分で下がった米国株を買うリバランスが発生することになるでしょう。とすれば、欧州株を売って得たユーロを売って米国株を買うためにドルを買いますから、ユーロ売り・ドル買いのフローが生じるかな、と予想していくわけです。
別の例をあげれば、当月の騰落率で、ドルが上がってユーロが下がった点に注目するならば、月末はドルを売ってその分でユーロを買うことになりますから、ユーロ買い・ドル売りのフローが生じるかも、と考えます。あまり精緻な予想でなく、"かな””かも”のレベルで構わないと思います。
これら実需のフローに関しては、後から値動きを説明する際には「実需のフローが観察された」という汎用性の高い一文で済むため便利ですが、リアルタイムで行う売買において、事前に予想し戦略として組み込むことは難しいと思います。
ただ、事前にある程度の見通しがあれば、あるはっきりとした傾向の値動きがでた場合に戸惑わずに済みますから、認知の歪みを防ぐ効果はあると思います。時間に余裕がなければ、「月末当日は、ロンドンフィックスに向かうにつれ荒れやすい」という意識だけでも持つようにすれば、大きな失敗は起こさないでしょう。
株式
株式は、月替わり効果がよく知られています。日本株は月末から月初にかけて上がりやすいとするものです。上旬と中旬とは下げる傾向があり下旬は末に向けて上がるとするアノマリーも、月替わり効果をより説明的に解釈したものと理解できます。
この月末に上がる原因を説明するためによく出されるのがドレッシング買いです。これは、ファンドの運用成績は月別で集計されるためその終値を引き上げるべく機関投資家自らが構成銘柄に買いを入れる傾向をさすものです。dressing、つまりドレスを着飾るように実体以上にみせるための装飾的な買いを意味し、日本語で"お化粧買い"と呼ぶこともあります。所詮は装飾目的でありファンダメンタルによる裏づけもないわけですから長くは持たず月初の早い段階で手放すこととなります。そのため月末から月初にかけての短い時間だけ上昇します。より少ない資金で効率的にあげるべく、時価総額の小さい東証二部やJASDAQ・マザーズの銘柄においてなされることが多いといわれます。
ほかには、二日新補、三日新補も聞いたことがあるでしょう。休日などのため、その月の最初の取引が1日からではなく2日、3日から始まった場合は相場が荒れるとするものです。最後に、ある強烈なトレンドが出ている場合は、上旬にトレンド、中旬で調整をはさみ、下旬でトレンド再開、というリズムがある場合が多いことは意識しておいてよいと思います。
ビットコイン
ビットコインは、私が特に意識しているアノマリーはありません。ただ、前節でも述べた、1月中旬暴落のアノマリーは意識する価値があると思います。
三者に共通するアノマリーとして、新月と満月の日はトレンドの転換点となるような大きな動きが起こりやすい、というものがあります。マーケットに限らず、満月や新月が人間の心理や自然界の現象に影響を与えているのではないかとする説は多くみられます。考えてみれば、海という巨大な水の塊にすら影響を与えるのですから引力というのは凄いものです。人体の構成要素で一番割合が多いものは水ですし、思考や感情に何らかの影響を与えても不思議ではないような気もします。現に、出産など特定の事象が起こりやすいとするバイオタイド理論など、興味を引かれる言説をよく目にします。とはいえ、専門外なので、この言説がどの程度のエビデンスがあるものかは分かりません。エリオット波動理論など直接的に占星術の影響を受けているテクニカル分析が存在することもあるからでしょうか、個人的に他のアノマリーと違い妙な説得力を感じてしまうことがあります。しかし、理性的に考えた場合、直接的な売買の根拠とすべきでないことはいうまでもありません。
こういった言説に抵抗を感じる方もいるでしょうが、科学的根拠が怪しい言説でも、多くの人がそれに従い行動すれば結果として何らか影響が自己実現されることは珍しい現象ではありません。帰納法的に考え、現実に発生している現象を大切にし、頭の片隅には入れておきましょう。
月末月初は特に注意
総じて、一ヶ月の時間軸の中で一番意識すべきなのは、月末から月初にかけての動きだと思います。月末フローや月替わり効果やドレッシング買いだけでなく、相場参加者の心理的転換が生じやすいからです。いわば、年間の12月から1月にかけてのトレンド転換アノマリーのミニチュア版とでもいうべき現象はたまに観察されるので、意識しておく必要があります。
▷次節:8.4 一週間を通じた時間要因