金(ゴールド)

13 原油および金のトレンド発生要因

13.6 金単体のファンダメンタル要因

金の価格は、安全資産としての面が注目されリスクオフの際に上がりリスクオンの際に下がる傾向があります。しかし、この安全資産という点にあまりに意識が行き過ぎると、為替・株・暗号資産を主戦場とするトレーダーにとって思わぬ勘違いを生んでしまう可能性があります。というのも、金それ自体のファンダメンタル要因で価格が上昇もしくは下降する場合もあるからです。つまり、安全資産という性質以外からの価格変動要因が存在するということです。そこから生じる動きをリスクオフの動きと間違えてしまう過ちを犯さぬよう、実際にコモディティを取引しない者であっても、ゴールドに内在するファンダメンタル要因をざっくりと知っておく必要があります。

採掘コストと生産量と埋蔵量

鉱脈が発見された場合、地表近くのものから採掘していきます。当然ですが、その方が簡単だからです。その後、だんだんと地下に埋蔵されているものを掘り進んでいくことになります。一例をあげると、かつての最大産出地であった南アフリカでは現在、地下4000mもの深さで採掘を行っています。このことは、採掘コストにダイレクトに影響します。地表近くからの採掘は、技術的にも容易ですし人手も少なくてすみますが、地下深くになればなるほど、高度な技術が要求され設備も巨大化し人手も要求されます。通常は工学的技術の発展と共にコストは低下するものですが、金に関しては必ずしもそうではないのです。これは、地表近くから採掘できる新たな鉱脈がもう殆ど残っていないということでもあります。近年を振り返っても、シベリアで発見された鉱脈を除けば、新たな大鉱脈の発見はほぼありません。このように生産コストの上昇と新鉱脈の枯渇とは、金の価格を押し上げる、純粋なファンダメンタル要因となります。

また、現在世界最大の金産出国である中国において、ここ数年減産の傾向がみられます。以前述べたように、現在の中国は食料に関して輸入依存国となりつつありますが、この点に関して中国政府は危機感を強めており、農地に対する影響を極力抑えるべく、採掘に伴う汚水の処理が困難な金の採掘を制限しだしているからです。この点も、供給の減少の点から価格を押し上げる要因となります。

その一方で、不純物が混じった低品質な鉱脈からでも金を精選して取り出す技術の開発は発展に向かっており、従来だと採算が合わないとして放置されていた鉱脈からでも金が採掘されるようになってきています。また、海底にある鉱山を採掘する技術も進歩しており、今後は採算がとれるコストで採掘ができるようになる可能性はあります。更に、現在世界第二位の生産を行うオーストラリアの鉱脈の中に大規模な鉱脈が発見される可能性も指摘されています。これらの事情は、金の価格を押し下げる、純粋なファンダメンタル要因です。

両面からの事情はあるにせよ、通説としては、今後金の生産量は減少するであろうと推測されています。その表れの一つとして、採掘会社の合併が進んでいます。2019年にも、カナダのバリック・ゴールドがアメリカのニューモント・マイニングに敵対的買収による合併を試みました。これは撤回されましたが、両者は業界における世界第一位と二位との会社であり、業界に待ち受ける可能性のある厳しい未来に備えた動きだと解釈できます。

このように、金の価格は、採掘コスト生産量埋蔵量とが主要なファンダメンタル要因として機能します。

その他

トレーダーは金の投資需要に注目しますが、一般的に身近なのは実需としての需要です。金が宝飾品として人気があるのは今さら説明する必要はないでしょう。ただ、実需としての需要が金価格に影響を与えるというよりは、金価格が実需としての需要に影響を与える側面の方が強く、それほど気にする必要はありません。敢えていうならば、市民の間で宝飾品としての金の人気が高いインドと中国とが、近年著しい経済発展とともに購買力を増しており、そのことが幾分かは影響を与えます。ただ、宝飾品としての金は、大部分が身につける目的で買われ、市場に再度売却されるケースは少ないことから、この点からも価格形成に与える影響は小さくなります。その他の実需としては、歯科用・工業用があります。歯科用としては、近年はセラミック技術の発展により需要は減少傾向にあり、投資に際しては無視してよいでしょう。工業用も、エレクトロニクス産業の好調不調に多少影響されますが、意識せずとも問題ないと思います。

それ以外にも、鉱脈を巡って法的な闘争が生じたり、産出国における政情不安が価格を左右する場合もあります。

デイトレーダーとして

本節で述べたことは、金や金鉱株を取引する場合には必要ですが、為替・株式・暗号資産の投資に際しては関係があるものではありません。しかし、リスクオフの指標として金価格の推移を観察する際に認知の歪みを生まないようにする予防的知識としては意味があります。全く無知であることは不安や恐怖を生み、これらは対象への過大もしくは過小な評価をしてしまう原因となります。頭の片隅でよいので、微かに意識しておくことをお勧めします。

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